七両三分の春駒春駒♪
私ゃ郡上の山奥育ち♪
主と馬引く糸も引く♪
三味線や太鼓、そして陽気な笛の音色に彩られた歌声が、櫓(やぐら)から流れてくる。
音頭に合わせてしなやかに手を振り、歯切れよい手拍子を叩く人々はは、年齢もバラバラ、服装もさまざまな老若男女である。
ごましお頭のおじいさん、おかっぱ頭の幼女、Tシャツ・短パン姿の若者、そろいの浴衣を粋に着こなしたおばさんの一団、etcが、櫓を中心として、幾重にも輪を作って踊っている。
カラコロと下駄を鳴らす人もいれば、スニーカーで軽快に跳ねる人もいる。 郡上おどりは、地元の住民でなくても、誰でも輪の中に入ることができるという。
——仲間に入れてくれー!
目の前でこんなに楽しげな光景が繰り広げられているというのに、おとなしく見物しとるわけにはいかん。
私は輪のなかに飛び込んだ。
最初はまるで酔っ払いの千鳥足であったが、熟練のおばさんたちを目で追って動きを真似るうちに、ドンくさい私なりにだんだん上達してゆくのがわかる。くわー、楽しいぜ!
郡上は馬所あの磨墨の♪
名馬出したも気良の里♪
「春駒」は、馬上で駿馬を操る動きを表しているというリズミカルな音頭だ。
昔は馬産が盛んで、盛大な馬市も開かれていたという郡上は、名馬「磨墨(するすみ)」の生まれた地ともいわれている。
磨墨とは、源平合戦の「宇治川の戦い」における先陣争いにて、梶原景季が跨った馬である。
馬は売られていななき交わす♪
土用七日の毛附市♪
そのうち、ランナーズ・ハイならぬダンサーズ・ハイがやってきたのか、ホンマに手綱を引いたり押したりしているような気がしてきた。うわー、気持ちいい。
旅の疲れも、増すどころかほどけていくようである。
夜が更けるにつれて、踊りの輪は膨らんでゆく。
郡上おどりには、人の輪を作る力があるだけでなく、人を没頭させ、無心にさせる力がある。
頭のなかを真っ白にして踊り狂うのが、これほど快感だとは思わなかった。
踊り上手でしんしょ持ちようて♪
赤い褌の切れるまで♪
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