宮川朝市
鍛冶橋と弥生橋の間にある川べり、約300メートルが宮川朝市の会場である。年中無休、早朝から正午まで。 |
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宮川の東側の川沿いで賑わう朝市。
枝垂れ柳の下で、建ち並ぶ店の屋根の役目を果たす白いほろが、静かにはためいている。
開放感あふれる市場には、野菜、果物、カラフルな飴玉や「げんこつ」と呼ばれる駄菓子、赤かぶらの漬け物、"さるぼぼ"という高山名物の人形など、たくさんの売り物が並べられている。
ふと、深紅のりんごの山に心奪われる。
「うちで獲れたりんごです。今が旬で、甘くて美味しいんよ」
色白で小柄なおばさんがいう。
この手のひらにすっぽり収まるサイズのりんご"姫小町"は、とても愛らしい。
——これください!
おばさんが、よく熟れた実を選んでくれる。
姫小町をビニールに詰めてもらっていると、鮮やかな黄緑色の"マタタビ"が目に入った。
「健康食品」と張り紙がしてある。マタタビって、猫まっしぐら、猫限定の食べ物だと思っていた。
「広口瓶に入れて、角砂糖とホワイトリカーと一緒に漬けておくと、"マタタビ酒"ができます」
——それって美味しいんですか?
「梅酒みたいに美味しくはないけど、体にいい飲み物だよ」
といってにっこり笑いながら、おばさんは袋を手渡してくれた。
おばさんに別れを告げた私は、りんごをシャツでこすって磨き、かぶりついた。
姫小町のポクポクとした素朴な歯ざわりと、口のなかにじんわり広がる甘みを感じながら、陽光を受けて輝く飛騨の台所を歩いた。
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