古い町並み
古い町並みが残る三町一帯は、飛騨の経済の中心的な役割を果たしながら発展し、江戸時代の町家そのままの姿を現在に伝えている。 |
|
|
町家が並ぶしっとりと落ち着いた通りを、お土産袋を抱えた人々が行き交っている。
漬物や駄菓子を売るお店、町家造りの歯医者さん。春と秋、年に2回行われる高山祭りで使われる屋台神輿の格納庫、水圧で動くからくり人形。上三之町に足を踏み入れたとたん、色んなものに目を奪われる。
まず、お土産屋さんで「さるぼぼ」を存分に物色することに決めた。
町中どこへいってもお目にかかることができる、高山のマスコット的存在の赤い顔をした人形である。
さるぼぼとは、飛騨弁で「猿の赤ちゃん」という意味で、災いが去る(猿)ように、良縁(猿)・子縁(猿)に恵まれるように、などの願いが込められている。
眉毛はもちろん、目も鼻も口もない、のっぺらぼうのさるぼぼであるが、ぎゅっと抱きしめたくなるような可愛らしさを持っている。顔を真っ赤にして泣く、きかん坊の人間の赤ちゃんにも見える。 |
|
|
人力車に乗って、膝にレースのショールをかけてもらい、つかの間の深窓の令嬢気分を味わった。ええ気分やった。
帰り際、風情のある和ろうそく屋「藤田鉄工工芸店」で、赤いろうそくを1本買った。
藤田鉄工工芸店は、鉄製のろうそく立てを製造するうちに、それに似合う和ろうそく作りも始めたという、こだわりのお店だ。
和ろうそくも、高山の名産品である。飛騨高山を舞台としたNHKの連続テレビ小説「さくら」のなかで、ヒロインの寄宿先となったのも、和ろうそくの老舗である。 |
|
今、京都の自分の棲み家に戻った私は、部屋の灯りを消して、和ろうそくに火をともしている。
直径1センチ、長さ10センチほどのはかなげなロウソクであるが、発する炎は驚くほど大きく、机の周りを煌々(こうこう)と照らしている。
ゆらりと揺らめく炎を凝視していると、長い時間にいぶされて熟した高山の町並みが、ぼんやりと浮かんでくるような気がした。 |
|