◆第三のシークエンス vol.6◆
 この晩餐会は特にあらたまった客を招くのではなく、女性たちが自分たち中心に催すので、下準備そのものが楽しいおしゃべりの場で、彼女たちはここでいわば宴の序他の場を楽しんでいるのである。そういうことからわが家のケースを思い出すと、台所の小テーブルは、ときに宴の第三のシークエンスの場になることもある。

 一般に、欧米のフォーマルなパーティは夫婦単位で参加するのが原則だが、食事が済んでデザートの段階になると、男女がいったん別の席になるのが通例である。たいていは男がシガーを吸うという理由で席を立つ。上流階級の大邸宅では、男は図書室や書斎などへ移るが、シガーというのは建前で、実際は仕事や政治の話と濃談など婦人の前では話したくない話題のためである。この場合、女性は食卓に残って女性だけの噂話などに興じるのだろう。先ほどの『汚名』では食後に女性二人(ヒロィンとホステス役の母親)が席を立ち、男たちが残ってスパイとしての陰謀の打ち合わせをする。そこへ席を外された男が入ってきて「お母さんがコーヒーをどこで飲むかと訊いている」というので、また別の場も用意されているらしい。

 もちろん日本の住宅では第一の食前酒、第二の食事というシークエンス設定だけでも苦労するのだから、第三のシークエンスのための部屋などあるわけがない。しかしわが家で建築家の夫婦数組を招いた場合などは、食後に自然に男女が分かれる。どうしてそうなるかというと、私の親しい建築家たちは、あまりにも建築が好きすぎるのか、飲めば飲むほど妻たちのことを忘れて建築の専門的な話題に熱中するので、奥様方を退屈させがちなのである。そこで男が気を利かせてL領域に戻り食卓を女性に明け渡す場合もあるが、酔うとそのきっかけも見失って建築論を続ける。そうなると女性たちは、後片付けを手伝うという理由で台所に逃げるのである。もちろん実際に皿洗いなどまで手伝って下さるので有難いのだが、そんなものはすぐ済んでしまい、あとは女同士のおしゃべりが楽しく続いているようだ。そこで活躍するのが台所の小テーブルなのだ。小さいから全員が座れるわけではないが、テーブルを中心とすることでおしゃべりの「場」が形成され易いらしい。そういう経験も考えあゎせれば、この小テーブルは日本の住宅の限られた広さの中で、宴の第三のシークエンスに貢献していることになる。

 以上を、とりあえず要約するなら、住まいにおけるもてなしに応じた空間は、デザイン以前の間取りの基本パターンとしては「L/D+dK」で、L領域とD領域が独立した出入り口を持つ形が現実的な理想であるようだ。




※このコンテンツは、宝酒造株式会社「TaKaRa酒生活文化研究所」のホームページ(http://www.sakebun.com/)から転載許可のものを掲載しております。

→「酒にまつわるお話」トップページへ
企画・制作/大平印刷株式会社©2001-2004 TAIHEI Printing Co.,Ltd. All rights reserved.
当サイトのコンテンツの全部または一部の無断転載を禁じます。記事に関するご意見・ご感想は こちら までお寄せください。