◆居間を「待ち合い」に使えるための条件 vol.3◆
  とは言え、居間と食堂さえあれば、どんな間取りでもこのようなもてなしができるか、というと必ずしもそうは行かない。現在の3LDK、4LDKというようなタイプの標準的な間取りは、序曲のあるもてなしを想定していない場合が多いからだ。

 もちろん居間と食堂がはっきりと別室になって隣接していれば、ことは簡単だ。しかし現在の日本の住まいはLD形式、つまり居間と食堂が一つの部屋になっている間取りが多い。これは住宅の中にどこかドカンと広い場所を作るという意味では、むしろ当然のことである。限られた面積の中で居間と食堂を別室にすれば全体の間取りがどこかチマチマしてしまうからだ。

 しかし居間=Lの部分を食卓と分離した序曲の場とするためには、LとDは、たとえ一つの部屋であっても、領域として分離されていなければならない。一つの部屋を領域として分けるとは、壁ではっきりと区切られなくても、部屋に二つの中心があり、その周囲にそれぞれにまとまった空間が感じられることである。二つの領域の境界ははっきりしたものではないが、低い棚を置いたり、居間にドッシリしたソファを食堂側に背を向けて配置したりすることで作り出せる。またそれぞれに中心を示す灯火があって、その中間がやや暗くても領域が分かれる。

 しかしまた、空間の領域がひとまとまりに感じられるためには、それぞれの縦横のプロポーションも重要だ。そういう観点からするといくら広くても正方形に近いプロポーションのLDは領域として二つに分かれにくい。正方形は二つに分けると、どちらも使いにくい細長い形になるからだ。したがって、「一つの部屋だが二つの領域を持つ」ためには、LDは細長いほうがいい。例えば、『ジョンとメリー』(John and Mary 1969)ピーター・イェーツ)の主人公。ジョン(ダスティン・ホフマン)の住まいのLDは単純な細長い形の部屋がソファの背によってLとDの二つの領域に明快に分けられている典型的な例である。この考えを発展させると、LDは二つの領域がL字型につながったり、二つの四角が部分的に重なった形で部分を確定していれば、一層望ましいことがお分かりだろう。図面を参照されればお分かりだろうが、細長かったり、L字型につながったり、二つの四角が重なったりする形の部屋は、同じ面積なら対角線が正方形に近い部屋よりはるかに長くなり、そこの視線の射程の大きさが部屋を広く感じさせるメリットもある。



 ここで今後の叙述のために便利な記号を設定しておこう。二つが一室のままで領域も分かれにくい部屋を「L D」と表記すれば、居間と食堂が全く別室の場合は「L+D」と表わしてよいだろう。するとLとDの領域が璧がなくてもおのずから分かれ易いような部屋は「L/D]と表記してもいいのではないか。ここで「/」は視線は妨げないが心理的に分けられている柔らかい境界を意味する。

 この「L/D]をもてなしに活用するのに、もう一つ重要な条件はL領域とD領域がそれぞれに出入り口を持つことである。音はまず、もてなしの前室としてのL領域に導かれる。その時に、いくらLとDの領域が分かれていても、D領域の食卓の脇を通過するのでは、あとでそこへ戻ってくることになるので時間のシークエンスと空間のシークエンスが一致しないし、もてなす側の主婦としては準備中の食卓をあらかじめ見せるのは避けたいだろう。もし「L/D」に出入り口が一つしかとれない場合は、それが少なくとも二つの傾城の中間にあって、食卓の近傍を通らずにL領域の中心に至れるようにしたい。

 客がL領域に通されたときにD領域が全く見えないのが理想だが、これは「L+D」形式でなくては望めないことだ。もちろん普段は「L/D」として一部屋の空間を間仕切り戸などで区切って、食卓の準備ができたら開け放つという形にすれば、事実上「L+D」形式になる。しかしこれはよほど上手に設計しないと間仕切りの上のレールなどが目立って、宴ではない日常において一部屋のゆったりした広がり感を招じる恐れがある。ましてL 領域とD領域をカーテンや安っぽいアコーディオン・ドアなどで仕切るのはやめたほうがよい。そんな仕切りを設けるより、客をL領域に導くときに食卓の上の灯火を消しておけば、D領域は薄闇に沈み、明るいL領域の中心の灯火がひときわ輝いて、客を暖かく迎える感じになるだろう。


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