中村 達
(ホスト役:坂本 良隆)
(その4)日本の風景=京都
中村: 明治27年に志賀重孝という国粋派の巨匠が「日本風景論」という本を書きました。北海道から九州まで、山と川をどういうふうに歩けばいいかというガイドブックです。この本が2週間で完売したそうです。日清戦争の直後で戦勝気分の中、「興国の気は山河に満ちている」ということで、若い人達の間に一気にひろがり、エネルギーが自然に向いました。
そう、政府は「インターネットというのは、世界にメッセージを発信しなさい。」と言ってるわけです。「地球はグローバルで友達になろう」。世界が期待しているのは「顔のない日本人」ではないのです。日本人としてアイデンティティを持ったメッセージがほしい、国際人ではなく日本人としてのメッセージがほしいわけです。極端に言うと、背景に御所や大文字山、皇居などの日本色があるものしか世界は見てくれない。
つまり若い人達が日本の国を語るとは日本の自然をちゃんと理解することです。京都は、まさに歴史的にも最高の場所です。それをインプットすれば、どこでも日本はこうだと書けるわけです。
坂本: そうですね。京都の中で町家にスポットがあたってますが、まだまだ視野が狭いということですね。ところで、京都でそういうおすすめスポットはどこでしょうか。
中村: 「大文字山」「比叡山」でしょう。上から見ると「ああ、そうか。地図の通りやな」と思いますよ。そこから俯瞰して地球の中の京都を見るとどうかというところから私は始めるべきだと思います。そうすると自分のポジションがわかるでしょう。
それが今、若者の京都観というと京都駅のシアター1200での吉本やジャニーズの公演に走るのが現状です。もう、京都の神社仏閣では客が呼べない。確かに若い人にはPRになりますが・・・。これからはUSJに修学旅行も流れていくのでしょう。
それで、時間はかかるけど、京都の文化を作ってきたのは、どういう地形なんだろうかなど理解してもらうことが大事です。汗をかきたい人は比叡山へ登れ、大文字山を30分で登って上から俯瞰して京都眺めるその目線が大事、グローバルに見るということはそういうことから始まると思います。私は京都に来る友達に必ずスニーカーかトレッキングシューズを持ってこいと言います。「一緒に山に登って京都を見よう。そっからはじめんねん。」と。
坂本: この対談コーナーに登場する南禅寺の松崎和尚に話しによると、松崎氏は南禅寺の山門から京都を見渡すと、京都ホテルが屏風岩のように京都の街の景観を遮断しているとおっしゃってました。
中村: 京都はいろいろ全国からも注目されます。私は京都にずっと住み、そして今は滋賀県に住んでます。東京から見るとどうも滋賀県といってもぴんとこない、琵琶湖といえばわかるのですが、京都の一部のように感じられるようです。全国各地で講演をさせていただいてますが、滋賀県に住んでいるといってもなぜか京都からと紹介される。それだけ京都というのはインパクトがあるのでしょうね。その利点を生かしてほしいですね。

最近感じるのですが、京都の自然も疲れているように思います。京都だけではないですが、先日東京のとある公園の池のまわりに同じ姿をした年配の男性の方が大勢いて、釣りをしたり、何十万円する望遠レンズのついたカメラを持って撮影しようとしたりしています。聞いてみると、暇つぶしだそうです。そうかと思えば、全国の観光地ではツアー旅行に同じ世代の女性があふれています。なにか寂しい思いをしました。恐らく定年後の夫婦の現実像を見ているのだと。いったい男ってなんやねんと。
坂本: 確かに女性は仲間がいて、男性は留守番という話しもよく聞きますね。
中村: 何が言いたいかというと、先進国の中で若い人が自然に向かっていない国は、日本だけなんです。これは、すごく大きな問題だと思います。アメリカで「アウトドアリテイラーショー」というアウトドアズ最大のトレードショーがソルトレイクで開催されています。毎年行くのですが、活況で、850社程集まります。通路までブースで埋まるほど盛況です。
世界中から15000人ものバイヤーが来て、一番売れているのがスノーシュー(かんじき)です。スノーボーダーつまり若者が必要としています。日本のスノーボードとは違い、山の中を滑るバックカントリースノーボードに必要なのです。雪山を登るために必需品なんです。そしてスノーボードをつけるリュックサックやシューズも売れていきます。日本でも徐々に売れはじめていますが、誰が買っているかというと、年配の方々です。雪山散策に必要なのです。この国は、滅びますよ。
この前もネパールに行ったのですが、日本人のトレッカーは年配の方がほとんどでした。しかし、ヨーロッパ人、アメリカ人、カナダ人など他の国の人達は、老若男女様々です。この違いは、本当に大変な問題ですね。こういう状況に日本があるのは、長い目で見て日本は危機だと私は思います。
日本の現実というと、若者はケータイ電話です。去年、通産省が調査した際、若者のスポーツ離れが表面化していることが明らかになりました。理由のひとつとして、ケータイにお金がかかってスポーツができない事があがりました。こんな国はおかしいと思いませんか。ぜひこのサイトで若者に良い情報を発信してください。
坂本: どういう理由でこのサイトをはじめたかというと、京都において問題を提起して、それを機会に京都をじっくりみてほしいと考えたからです。確かに話題としてシアター1200や町家や京懐石料理も行くのは当然だと思いますがそれだけではいけませんね。今日のお話で、どこから京都を眺めるかという視点も非常に大事なお話だと。

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