【第1回】水野義之+平川秀幸

(その2)乗り越えるべきすごいものがある
平川: 京都には問題意識を持った学生も多くて、街の自治意識も強いと聞きますが?
坂本: 「町内」とか「学区」とか、そういう繋がりは京都の市街地では非常に強いと思いますね。でも市民が環境ということに対して必ずしも意識が高いとは言えないでしょうね。
水野: 僕は今、大阪府茨木市に住んでて、一番下に小学校5年の子供がいます。子育てとしては小学生を持つ最後の2年間なのと、「大学にいて研究だけをやっていればいいわけじゃない」という気持ちがあったから、PTA会長をやっています。
坂本: PTA会長を?
水野: ええ、京都に比べると茨木という場所は新しい住民が大部分だし、地域性というものがそれほど強いわけじゃない。母親同士のネットワークはある意味で非常に発達するのですが、父親というのは組織社会に所属してて、地域社会にはほとんど所属していないわけですよ。つまり自分がどこに住んでいようが関係なく勤め先組織に所属してて、地域には帰って食事をして寝るだけという状態が多い。存在としての地域性の意味がなくなってるわけです。産業の発展の結果として日本中がそういう場所になり果ててる。
坂本: なるほど、PTA会長をやることで、地域での存在意義をと。
水野: そういう場所に子供が育ち僕もいて、それでいいのか、という疑問が湧いてくるのです。その土地にいることにもっと意味付けができるはずですよね。どうせ住んでいるところだったら、もっといい場所にしたい。その点、京都という地域は共同体意識がずっとあって、学生や研究者が多いことによる専門性もあって、条件としては非常に整っているはずですね。
坂本: それが活かせてないのはなぜでしょう?
水野: うーん、難しいですね。
平川: 京都には環境や社会に問題意識を持った学生が、非常によく集まっていると思いますね。他の地域よりは多いと思います。
水野: あ、それはありますね。地域的な魅力として、伝統の力は非常に大きい。
坂本: そんな中で、ベンチャー企業も育っているとよく言われますね。
水野: まずは街の名前とかイメージにひかれて来る。そこで自分なりのものをどうやって作っていくかを、みんな悩むでしょうね。その中で伝統が壊されることによって、新しい伝統が作られる。つまり向かうべきものが厳然として存在してて、それを乗り越えようとするところに初めて新しい伝統ができる。そこに意味があるのです。乗り越えるべきものが何もなかったら、何も生まれないですよね。その点、京都には乗り越えるべきすごいものがある。だからベンチャーも育つ。
平川: 確かに京都は1200年の伝統を持っていて、その中で自分をどう自己主張するか、自分はどうやって生きるかということを、他より意識させてくれる地域ですね。集まってくる人も、「あれもやりたい、これもやりたい」と、いろんなことに手を出してしまう人が多いでしょうね。そういう意味では前回言いました「サイエンス・ショップ」に関わりたいという人も、たぶん他の地域より多いでしょう。

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