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2024年のNHK大河ドラマで描かれる平安貴族の世界。色鮮やかな十二単や長い黒髪、そして源倫子のサロンで繰り広げられる上級貴族の雅な世界は現代の私たちにはどれもこれも馴染みのないもの。そうした平安貴族の世界を1/4のスケールで具現化展示されているのが京都にある「風俗博物館」です。その具現化された展示作品を見れば、なお一層、源氏物語の世界に触れることができるでしょう。
今回、風俗博物館の学芸員の方に、展示作品の見どころなどお話しをお伺いしてきました。
今回訪れた京都にある風俗博物館は、西本願寺前の道路を挟んだ向かいに建つビルの5階にあります。
風俗博物館 外観
京都駅からですと、京都市営バス9系統、二条城・上賀茂御薗橋・西賀茂車庫行きに乗って西本願寺前バス停で下車。バス停から西本願寺を背にして道路の向こうを見ると写真のビルが見えます。
ビルの1階からエスカレーターに乗り、5階で降りれば風俗博物館に到着です。
なお、こちらの博物館は、展示作品入れ替えのため開館期間が決められていますので、訪れる前にホームページでご確認ください。
今期は、令和6年2月5日から8月10日、8月19日から8月24日まで開館されています。(※8月11日~18日は夏季休業)
風俗博物館は、日本の風俗・衣裳の研究成果の発表の場として昭和49年にオープン。主に源氏物語のシーンから選ばれたものを、様々な書物から紐解き各展示期間のテーマに設定し、1/4の縮尺で具現展示されています。
源氏物語が好きだけども文章だけではどうも描かれている平安貴族の世界がイメージしにくい。でも、立体的に具現展示されているので物語の世界が分かり、より面白くなってくるという来館者の方の声もあり、展示作品が入れ替わる度に訪れるリピーターも数多くいらっしゃるそうです。
館内は写真撮影が可能。古典好きや源氏物語ファンはもちろんのこと、平安の雅な世界を堪能したい方には見どころ満載の博物館です。
エレベーターを5階で降りると、目の前に雅な世界がワンフロアいっぱいに広がっています。今期の展示内容は以下の通りです。
風俗博物館 法華経千部供養 正面より
(1)法華経千部供養
~仏の御教えの結縁・准太上天皇の正妻格として後援された紫の上の法要と惜別~
(『源氏物語』「御法」より)
(2)女房の日常・局 ~王朝女性の身嗜み・黒髪~
(3)平安の遊び ~偏つぎ~
(4)四季のかさね色目に見る平安王朝の美意識
(5)産養
~東宮妃・明石の女御の皇子誕生・若宮の披露と源氏一門の栄華~
(『源氏物語』「若菜上」より)
フロアを入ってすぐ目にするのは、展示作品(1)の「法華経千部供養(ほけきょうせんぶくよう)」。
こちらは、源氏物語 第40帖「御法」で描かれている場面が具現展示されたものです。
病気をしてから体調の優れない紫の上は出家を望むも、寵愛している光源氏はそれを許さず死期を悟った紫の上は法華経千部の供養を行うことを発案します。その法華経千部供養が二條院で執り行われたシーンが展示されています。
法華経千部供養のワンシーン
法華経千部供養は、法華経八巻を4日間で講説する、法華八講(ほっけはっこう)の形式で行われています。読経する僧侶や、鼓を鳴らし、舞を踊る様子には来世の安寧への祈りが込められています。
法華経千部供養のワンシーン
左に歩を進めると展示作品(2)の「女房の日常・局(つぼね)」が見えてきます。ここでは、局での女房たちの日常が具現展示されています。
平安貴族の女性と言えば、黒くて長い髪が特徴的ですね。さぞかし日常生活を送るのに大変だろうと思いますが、当時は長く美しい髪が美人の条件だったのです。
豊かな長い黒髪は平安貴族美人の条件
これだけの長い髪は当然、お手入れも大変です。毎日のシャンプーやトリートメントは欠かせませんが、平安時代にそのようなヘアケア商品があるはずもなく。ではなにでお手入れをしていたかというと、米のとぎ汁を髪につけて櫛で梳かしていたそうです。
しかも、洗髪の日に適した日を占い、その日にお手入れ。ドライヤーなどなかったので、女房たちが扇いで乾かしていました。
やがて歳を重ね、抜け毛に悩まされると、抜け落ちた髪を集めて作った「髢(かもじ)」と呼ばれる、今で言うヘアーエクステンション(エクステ)を付けて豊かな髪を保ったそうです。
自分を美しく見せるための努力は惜しまないあたりは、現代にも通じる感覚ですね。
次は展示作品(3)「平安の遊び」です。
「偏つぎ」の場面
NHK2024年大河ドラマでは、源倫子のサロンで、まひろこと紫式部が次々とかるたを取り当ててしまうシーンがあります。このかるた遊びは、「偏(へん)つぎ」と呼ばれる平安時代の女性や幼い子が漢字の知識を競い合うものです。
偏(へん)と旁(つくり)に札を分け、例えば偏が読まれたら文字になるように並べられた札の中から旁を選び、その持ち札の数を競うもので、どれだけの漢字を知っているかが勝負の決め手となります。
展示作品(4)「四季のかさね色目に見る平安王朝の美意識」では、平安時代の貴族女性が装束に取り入れた四季のかさね色目の妙を具現作品にて展示されています。かさね色目については平安時代の文献である「満佐須計装束抄(まさすけしょうぞくしょう)」によって現代に伝えられています。
春夏秋冬の季節ごとの彩りを装束の襟元や袖口で表現
「かさね色目」とは、平安時代の重ね着をした装束の袖口や襟元からのぞく色のグラデーションやコントラストのこと。美しい四季をもつ日本だからこそうまれた配色の美です。
春夏秋冬、それぞれの季節に応じてどんな配色が当時の装束に取り入れられていたのかが展示されています。
どの色とどの色を組み合わせれば粋に見えるか、そんな平安の貴族女性の美意識は、現代の私たちの目を大いに楽しませてくれます。
左「紅紅葉かさね」、右「雪の下かさね」
左「若菖蒲かさね」、右「白撫子かさね」
左「女郎花かさね」、真ん中「黄菊かさね」、右「紅紅葉かさね」
左「梅かさね」、奥「桜かさね」
展示作品(5)の「産養(うぶやしない)」とは、母子の多幸と無病息災を願い、生まれた子供の有力な後見者が務める儀式です。
源氏物語34帖「若菜上」では、明石の女御が皇子を出産し、それを祝って六條院春の御殿で行われた産養の場面が描かれています。こちらでは、誕生後の重要な通過儀礼が具現展示されています。
源氏物語34帖「若菜上」で描かれている産養
最後の展示コーナーには、十二単をまとった平安貴族女性の作品が原寸大で展示されています。この十二単、重さは約16㎏。さぞかし重かったでしょうと思いきや、衣を長く後ろに引いているので、ある程度は重さを分散させられるそうです。
それにしても袖や襟元からのぞく、かさね色目のグラデーションがなんとも素敵です。
平安貴族の美意識の高さを感じずにはいられません。
美しいと感じる気持ちは平安の世も令和の現代も変らない
この世に生を受けたことを祝い、健やかに成長し繁栄することを祈り、死期が近づくと今度は来世への安寧を祈るため、それら人生の節目ごとに行われた祈りの儀式が源氏物語では描かれています。
その場面を、「源氏物語からみる平安貴族の現世と来世への祈り」というテーマで1/4のスケールで具現展示している風俗博物館。展示作品を見ていると、祈りの気持ちや美意識というものは時代を経ても変らないことに気づかされます。
なお、今回の展示は8月24日まで(※8月11日~18日は夏季休業)で、それ以降、県外での出張展示があるため1ヵ月ほど休館されるそうなので、ご注意ください。
※情報は2024年2月のものです。
店舗・施設名 | 風俗博物館 |
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住所 | 京都市下京区堀川通新花屋町下る(井筒左女牛ビル5階) |
電話番号 | 075-351-5520 |
営業時間 | 10:00~17:00迄 ・休館日:日曜日/祝日/お盆期間/展示替期間(※要確認のこと) |
交通 | 京都市バス「京都駅」から9系統にて「西本願寺前」で下車。徒歩3分。 徒歩の場合:京都駅より16分程度。 |
料金 | 一般:800円、中学生/高校生/大学生:300円、小学生:200円 |
ホームページ | https://www.iz2.or.jp/ |
Writer瀬田かおる
Writer瀬田かおる
本が好きすぎて読むだけでは満足せず、民間資格である「JPIC読書アドバイザー」を取得。ライターとして、本と読書に関する活動のアイデアを形にするため邁進中です。モットーは『地方に住んでても、何歳からでも、人は変われる!』
全国の個人書店、私設図書室を取材するのが夢です。
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