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源氏物語ゆかりの地が点在している、嵯峨嵐山。
小倉山を借景に、大堰川(桂川)にかかる渡月橋の景色はだれもが一度は目にしたことがあるでしょう。春は桜が咲き、夏は大堰川を屋形船がゆき、秋になると小倉山は色とりどりの紅葉に色づいて、冬には真っ白い雪に覆われる。そんな1年を通していつ訪れても心安まる場所です。
この日本有数の景勝地にあるのが「嵯峨嵐山文華館」。そちらではいま、企画展「よきかな源氏物語」が開催されています。大河ドラマの放送により紫式部に注目が集まっている絶好のタイミングに、広報の中島さんと学芸員の阿部さんにお話を伺ってきました。
(取材は展示期間前期に行いました。)
この記事で特にお伝えしたい嵯峨嵐山文華館の魅力はこの3つ。
1.百人一首と源氏絵、それぞれの作品を一緒に鑑賞できるのは嵯峨嵐山文華館ならでは!
2.源氏物語が初心者の人にもやさしい展覧会!
3.120帖の畳敷きの広間で座ってゆっくり鑑賞できる!
これらの3つの魅力を記事に散りばめているのでお楽しみに。
嵯峨嵐山文華館は、JR嵯峨嵐山駅から歩いて14分ほど。京福電鉄の嵐山本線だと嵐山駅で降り、歩いて5分ほどのところにあります。
駅から嵯峨嵐山文華館までには、たくさんの土産物店があるので退屈することがありません。やがて見えてくるのが大堰川(桂川)。それにかかる渡月橋と小倉山との景色は圧巻!
多くの観光客が行き交う通りを曲がり、大堰川(桂川)沿いをいくとやがて嵯峨嵐山文華館が見えてきます。
嵯峨嵐山文華館 外観
こちらで1月18日から開催されている企画展「よきかな源氏物語」は、源氏物語を題材に描かれた日本画が展示されています。
画家によって源氏物語の同じ帖でも描くシーンが異なっていたり、あえて登場人物を描かずに表現した源氏絵があったりと、源氏物語“ツウ”の人にも楽しめる内容です。
もちろん、“これから”源氏物語に触れていこうと考えている初心者の方も楽しめるよう、各作品ごとに分かりやすい解説文が設けられています。
《企画展「よきかな源氏物語」開催概要》
・展示期間 2024年1⽉18⽇(⽊)〜4⽉7⽇(⽇)
前期:1⽉18⽇(⽊)〜3⽉4⽇(⽉)
後期:3⽉6⽇(⽔)〜4⽉7⽇(⽇)
・開館時間 10:00~17:00(最終入館16:30)
・休館日 2月18日(日)、3月5日(火)
2月17日(土)は15:00で閉館。
百人一首が誕生した地ともいわれている嵯峨嵐山。その百人一首の歴史や魅力について、嵯峨嵐山文華館では知ることができます。
常設展には「百人一首ヒストリー」と題されたコーナーがあります。今回の企画展に合わせ、百人一首の中に出てくる紫式部にフォーカスして少しだけ内容を変えているそうです。
百人一首の歌仙人形100体が勢揃い
百人一首100体の歌仙人形(フィギュア)が一同に並んでいるコーナーに足を踏み入れると「あっぱれ!」と口にしてしまいそう。歌仙人形のそばには日本語と英訳で歌が表記されています。
つぎに向かうのは企画展エリア。
こちらでは、紫式部の肖像画や百人一首の撰者であり源氏物語を研究し写本したとされる藤原定家についての作品を展示。
紫式部のこと、源氏物語を研究した人、紫式部に関連する人を紹介するコーナーとなっています。
次のエリアへ足を進めましょう。
「わぁぁ!!」
思わず声を出してしまったほど、目に飛び込んできたのは見事な金屏風。
こちらには3作品が展示されています。
このエリアに入り向かって右側の作品は、狩野山楽の「源氏物語押絵貼屏風」。
源氏物語の1帖から19帖の、光源氏が比較的若い頃の物語が描かれています。
狩野山楽《源氏物語押絵貼屏風》(右隻/通期) 福田美術館蔵
狩野山楽《源氏物語押絵貼屏風》(左隻/通期) 福田美術館蔵
紫の上との出会いの場面や、ライバルの血筋同士にある光源氏と朧月夜が恋仲となり、扇子を交換する場面(このことが物語では後々大問題となり、光源氏が須磨へ流罪となるきっかけとなるのですが)など、源氏物語で有名なシーンが描かれています。
また、斎宮となった娘に付いて伊勢に行く六条御息所と最後の別れをするため、光源氏が滞在先の野宮神社を訪れた場面。この作品では野宮神社の鳥居が描かれています。
「源氏物語押絵貼屏風」の左隣に展示されている作品が、「源氏物語図」で作者不詳です。
作者不詳《源氏物語図》(部分/通期)個人蔵
こちらの作品は、源氏物語の54帖すべてが描かれており、その順番に解説されているものを読みながら鑑賞すれば源氏物語の内容が理解できる展示の仕方となっています。
気になったのは、全体に描かれているモクモクとした雲のような絵。これは、場面を区切る役割をしているそう。時間の経過を雲の描写で表現しているそうです。
なお、この企画展ではこんな面白い鑑賞の仕方があるんです。
それは、源氏物語の同じ帖を描いても、作者によって取り上げる場面が違っているということ。なので、その画風の違いをみつけるのも楽しみのひとつ。
たとえば、身分の違いを恥じ、光源氏から姿を隠そうとした明石の君をめざとく牛車から見つけた光源氏の姿が描かれた場面は、有名なシーン。
この「源氏物語図」にも描かれていますが、2階に展示の「明石・澪標図屏風」でも同じ場面が描かれているで作風の違いを楽しんでみては?
この2つの作品に目を奪われ、源氏物語の世界に浸ってしまうところですが、ぜひ後ろを振り返ってみてください。壁に掛けられた可愛らしい2枚の「源氏物語相関図」が目に飛び込んできます。
嵯峨嵐山文華館オリジナルの源氏物語相関図
こちらは、源氏物語初心者の方でも企画展を楽しめるように今回作成されたもの。それぞれの登場人物がアニメで描かれ、関係性もハートマークで表現されています。
読みにくい人物名にはふりがなも振ってありますし、どの帖に登場する人物なのかも表示されていてとても分かりやすい!
1階最後に展示されているのが、「源氏物語図屏風」作者不詳です。
作者不詳《源氏物語図屏風》(右隻/前期)個人蔵
作者不詳《源氏物語図屏風》(左隻/前期)個人蔵
54帖のうち、ランダムに36帖取り上げ描かれたこちらの作品は、比較的小さめの屏風のため、こどもや女性向けに描かれた作品ではないかといわれているそうです。
作品には畳が描かれていることにぜひ注目してもらいたいところ。じつは、紫式部の時代には部屋全体に畳を敷き詰める(座る部分にはあったそう)ことは高貴な身分の人にもなかったそうなのです。しかし、江戸時代では畳を敷く習慣があったために、この作品には描かれているだとか。
つぎは2階の展示室に歩を進めます。2階に上がった途端、大堰川(桂川)と小倉山の景色が目に飛び込んできました。廊下にはその景色が眺められるよう椅子が置かれているのが嬉しい!
2階の展示室では、源氏物語の特定の場面を切り取って題材にした屏風や掛け軸などの日本画が展示されています。
120帖の畳敷き展示室。競技カルタの会場としても使用。
2階からの嵐山の景色に見とれながら展示室に入ると、120帖の畳敷きの大広間が目の前に広がり、2度驚かされます。
入ってすぐ右手に展示されているのが、「明石・澪標図屏風」作者不詳です。
作者不詳《明石・澪標図屏風》(右隻/前期)福田美術館蔵
作者不詳《明石・澪標図屏風》(左隻/前期)福田美術館蔵
12帖から14帖が描かれたこの作品は、金屏風でとても華やか。
「本来、屏風というのは畳に座って鑑賞するものです。なので、畳敷きになっている2階の展示室では、ぜひ座って鑑賞していただきたいですね」とおっしゃる、学芸員の阿部さん。 そのため、「明石・澪標図屏風」も座るとちょうど目の高さに絵がくるように描かれているとのこと。確かに、屏風の下の方に絵が描かれているのが分かります。
「留守模様」という表現方法をご存じでしょうか。
これは、登場人物を描かず、特徴的なものや風景を描く表現方法のことです。その絵を楽しめるのが、狩野玉円永信の「源氏五十四帖図」。
狩野玉円永信《源氏五十四帖図》(左隻部分・右隻部分/通期)福田美術館蔵
留守模様で表現されているので、1階展示室で鑑賞してきた源氏絵を思い浮かべながら、どの帖のどの場面が描かれているのか想像しながら鑑賞してみてください。さながら、1階で鑑賞してきたことを試されているかのようです。
ほかにも、歌舞伎で源氏物語のパロディが描かれた作品など、趣の変わった作品も展示されています。このような作品があることから、源氏物語が時代を通して現代まで、さまざまな人に楽しまれたきたことが分かります。
2階展示室、最後の作品は山本素軒の「源氏物語図屏風」です。
山本素軒《源氏物語図屏風》(右隻/通期)福田美術館蔵
山本素軒《源氏物語図屏風》(左隻/通期)福田美術館蔵
この作品では、19帖の「薄雲」と23帖の「初音」が描かれています。
右側の屏風(右隻)で描かれている「薄雲」の帖では、明石の君が紫の上に養育されるため姫君と別れる場面が。そして左側の屏風(左隻)では、実母である明石の君からの手紙や贈り物が届けられ、紫の上に健やかに育てられた7年後の姫君が描かれています。
このような帖の組み合わせで描かれた作品はめずらしいそう。2つの帖を一双の屏風としたことで、母の娘に向けた愛情の深さを感じることができる作品です。
江戸時代や室町時代の絵師が描く源氏物語を題材とした日本画を鑑賞し、改めて1000年も楽しまれてきた源氏物語の面白さと、それを書いた紫式部の才能のすばらしさを思い知りました。
嵯峨嵐山文華館にはカフェが併設されています。
源氏絵の日本画を鑑賞したあとは、カフェでのんびり嵐山の景色を眺め、平安時代の雅な時代に思いを馳せてみるのも、よきかな。
ただ、嵐山は観光客が多く訪れる人気の地。渡月橋周辺は多くの人で賑わっていますので、なるべく早い時間に駅に降り立ち、人のまばらなうちに嵯峨嵐山文華館をめざしてのんびりお散歩するのもオススメですよ。
これから開催されるイベントをご紹介します。
「小倉百人一首競技かるたのオールスター戦「第5回 ちはやふる小倉山杯」」
2024年2月18日(日)10:00~17:30
2024年2月24日(土) 13:30~14:30
※情報は2024年1月のものです。
店舗・施設名 | 嵯峨嵐山文華館 |
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住所 | 京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町11 |
電話番号 | 075-882-1111 |
営業時間 | 10:00 - 17:00(入館は16:30まで) *カフェ 嵐山 OMOKAGEテラスの営業時間も同じ ・休館日 年末年始、展示替期間 *2023年4月19日より火曜日も開館いたします |
交通 | JR山陰本線(嵯峨野線)で嵯峨嵐山駅下車、徒歩14分 阪急嵐山線で嵐山駅下車、徒歩13分 嵐電(京福電鉄)嵐山本線で嵐山駅下車、徒歩5分 |
駐車場 | なし |
料金 | 一般・大学生:1,000(900)円、高校生:600(500)円、小中学生:400(350)円 *( )内は20名以上の団体料金 *障がい者と介添人1名まで各600(500)円 *幼児無料 *常設展もご覧頂けます。 |
ホームページ | https://www.samac.jp/ |
Writer瀬田かおる
Writer瀬田かおる
本が好きすぎて読むだけでは満足せず、民間資格である「JPIC読書アドバイザー」を取得。ライターとして、本と読書に関する活動のアイデアを形にするため邁進中です。モットーは『地方に住んでても、何歳からでも、人は変われる!』
全国の個人書店、私設図書室を取材するのが夢です。
noteでは、読了した本の感想を『インクの匂い』に書き溜めています。
WEB:https://note.com/setata/m/m4837f80d4437
Twitter:@setata03