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源氏物語初心者に特におすすめしたいのが京都府宇治市にある『宇治市源氏物語ミュージアム』。
こちらは、宇治十帖の主な舞台となった宇治にあり、復元模型や体験型展示のほか、あらすじや物語の魅力が映像で紹介されており、気楽に楽しみながら源氏物語の世界に親しむことができます。
今回、館長の家塚智子さんに、1000年以上も人々に楽しまれている源氏物語の魅力と、これから源氏物語の世界にふれようと考えている人のために、学び方のコツをお伺いしました。また、館内の楽しみ方のご説明もしていただいたので、これを読めば「なぁんだそんなに難しく考えなくてもいいんだ」と肩の力を抜いて物語の世界を楽しむことができるでしょう。
さぁ、ご一緒に1000年前の物語の世界をのぞいてみましょう。
源氏物語の最後の十帖の主な舞台となった宇治。
宇治川が流れ、緑豊かな地に建てられた『宇治市源氏物語ミュージアム』は、京阪宇治駅から徒歩約8分、JR宇治駅からなら徒歩約15分のところにあります。
▲正面より
平成10年(1998年)に開館。海外からの来館者も多く、館内では多言語対応もバッチリ。ミュージアムの建物の外観は寝殿造りをイメージされ、たくさんの木々の中には宇治市の木〔イロハモミジ〕も植えられており、「初夏は新緑が瑞々しいです。そして秋には真っ赤に色づいて綺麗ですよ」と、家塚館長。
▲正面玄関に向かうスロープの手すりには〔源氏香図〕がはめ込まれています。(源氏香図については記事の後半でご紹介します)
源氏物語はいまからおよそ1000年前の平安時代に、紫式部によって書かれた長編物語といわれています。ただ、何年に書かれて、完成したのか、正確な年は分かっていません。
物語は、平安時代の貴族社会が五十四帖にわたって書かれており、最後の十帖は宇治が主な舞台となっています。
この源氏物語が平安貴族の間で知れ渡るとすぐにその面白さは広まり、いまで言うところのベストセラーとなったのです。そして現代では日本だけではなく、多くの言語に翻訳され世界中で読まれています。
ところで、1000年以上も源氏物語が人々に楽しまれている面白さはどこにあるのでしょうか。家塚館長は「平安時代の人にも現代の人にも物語に共感できることがあるからではないでしょうか」と言います。時代は変われど、人々の喜怒哀楽は、1000年の時を経ても変わらないのかもしれません。
源氏物語には多くの登場人物がいます。そのため人間関係の複雑さに挫折してしまった苦い経験をお持ちの方がいるのではないでしょうか。そこで、挫折せずに物語を楽しむコツを家塚館長にお伺いしました。
「まず、学ぶという意識は捨てましょう。これは「物語」なのですから、楽しむ感覚が必要です。そもそも人は興味のあること、好きなことは「学ぶ」なんて意識はないはずです。たとえば「推し」の芸能人やアニメや映画があったとして、好きなことだからどんどん深掘りしたくなりますよね。そのときは「学んでる」なんて意識はないはずです。ただ「推し」のことが純粋に知りたくて関連する情報を集めたりしますよね。それと同じで、源氏物語の場合も、映画やマンガ、解説本から気軽に物語の世界に触れてみてはいかがでしょうか。どこに「推し」ポイントがあるか分かりませんから」
さらには「推しポイントが描かれている場面から読んでも良いし、最後の宇治十帖から読むのもありです」とのこと。それを聞いてハードルが一気に下がりました。
では、実際に観て、聞いて、体験できるコーナーが盛りだくさんの館内を家塚館長と巡り、見どころなどを伺いました。
館内は観覧料が必要な〔展示ゾーン〕と、無料で回れる〔情報ゾーン〕に分かれています。
▲総角(あげまき)結び
廊下の上部にも注目。総角結びという飾り結び
平安京と光源氏がテーマの展示室です。
こちらでは、源氏物語のあらすじが映像とともにナレーションされ、王朝文化や貴族の暮らしぶりについて等身大の模型などから知ることができます。
▲「垣間見(かいまみ)」しているシーン。
▲実際に垣間見が体験できるコーナー
こちらの「垣間見よう」コーナーでは、月明かりに見立てた灯りをスイッチでオンオフしてどんな見え方になるか試してみよう。「えっ!なんで?」と思わず驚きの声が出てしまうはず。車椅子の方やお子さんにも体験しやすいよう、のぞき窓が低めの位置に配置されています。
▲六条院の模型
六条院は光源氏が新築した邸宅。広大な敷地は春夏秋冬の四つに分けられそれぞれに女君を住まわせた。
平安京から宇治へ舞台は移ります。
▲鴨川を渡って山道を越え、宇治に入る「宇治への道行き」を表現
源氏物語後半の宇治十帖をテーマにした展示室です。
こちらでは、宇治十帖のあらすじが照明演出とともに音声で紹介され、その演出効果に思わず物語の世界に入り込んでしまいます。なお、ナレーションでは物語の結論は言っていないので続きが気になる~。
▲ナレーションに合わせ実物大のセットにスポットライトがあたる
▲スクリーンには、物語の舞台を想定した宇治の風景が映し出される
▲照明演出の効果で物語に引き込まれてしまう
こちらでは、オリジナルアニメや宇治十帖がテーマの「浮舟」「橋姫」が上映されています。
物語の間では、源氏物語のあらすじを紹介。そして、源氏香の遊び方が体験できます。
▲「源氏香」の体験コーナー
「源氏香(げんじこう)」とは、香道の世界での鑑賞方法の一つ。
~源氏香の遊び方を体験しよう!~
5つの箱の香りを5本の縦線に見立て、同じ香りのものを横線でつなぐ。
▲源氏香図の一覧
手前にずらりと並んでいる源氏香図スタンプから、ご自身の源氏香図を探し出して押す。
▲宇治市源氏物語ミュージアム、オリジナルの源氏香図スタンプ
▲フロアガイドの裏面にスタンプが押せるスペースがあります
▲体験した私は「橋姫」を選びました。さて、その結果は……。
お帰りの際はご自分が選んだ巻名が正解かどうか答え合わせしてみて下さい。
その答えがどこに掲示されているのかは、ナイショです(笑)。
▲源氏物語のあらすじが壁一面の特大パネルに書かれてます
こちらでは定期的に様々なテーマをもとにした展示がされています。
今後の企画展示予定は次のようになっています。(源氏物語ミュージアムのホームページより)
『企画展 源氏ワンダーランド』
会期:令和5年7月12日(水曜日)~9月10日(日曜日)
『企画展 宇治と憂し ーゆめかうつつかー』
会期:令和5年9月13日(水曜日)~11月26日(日曜日)
『特別企画展 このわたりに薫る君やさぶらふ』
会期:令和5年11月29日(水曜日)~令和6年2月4日(日曜日)
『企画展 名所図でめぐる宇治十二景』
会期:令和6年2月7日(水曜日)~4月21日(日曜日)
なお、展覧会の会期および内容は変更になる場合があります。
つぎは、無料で楽しめるエリアに向かいました。
「こちらの『源氏物語に親しむコーナー』では、自由に楽しんでください」と、家塚館長。
・いろはに三角
▲右側から見ると「いろはにほへと」
「ものごとは一方向から見たものだけが正しいわけじゃないことを表現したかったんです」と家塚館長が案内してくださった『いろはに三角』のコーナーは、左右見る角度によって違う文字が見える仕掛けになっています。
・何がかくれてる?
▲分解されたひとつの絵。なんの絵がかくれてるのでしょうか?
一見バラバラの絵も、見る場所によって1枚の絵になることを体験するコーナー。
どの位置に立つと1枚の絵になるのか、右往左往しながら探り当てるのが楽しい!
・六条院引き出し
▲板を引き出すと説明が書かれている
こちらは、六条院をイメージしたコーナーで、絵が描かれた板を引き上げると関連する人物などの説明が書かれています。そして、ここにも仕掛けが……。
「へぇ~。そういうことだったのか!という謎解きの体験をしてもらいたいのです」と家塚館長。
謎が解けたあなたは、あとからジンワリとその余韻に浸れるはずです。
▲源氏物語関連の書籍がたくさん
源氏物語関連の書籍が配架されている図書室です。専門書だけではなくマンガや児童書もありますので、もっともっと源氏物語の世界を楽しむことができます。
なお貸出はしていないそうですので、こちらの静かな雰囲気の中でお楽しみ下さい。
以上で館内を一巡しました。館内にはお茶やお香などが買えるショップが併設されていますし、ひと息つきたい方にはカフェもありますので、ひと休みしながら源氏物語の世界を満喫することができます。
今回、宇治市源氏物語ミュージアムでは、五感を使って源氏物語の世界を知ることができたため、源氏物語を「学んだ」というより「楽しんだ」という感覚になりました。さらには「源氏物語が書かれた時代背景をもっと知りたい!」欲がフツフツと湧き出してきました。
そこで、ミュージアムでは連続講座なども開催されています。この連続講座では、源氏物語を執筆した紫式部や物語の登場人物などさまざまなテーマについて、専門の研究者から話を聞けるチャンス。事前申し込み制で、多数の場合は抽選となります。
2024年のNHK大河ドラマでは、紫式部が主人公です。2024年には源氏物語ブームが到来するかも!?。
宇治市では『紫式部ゆかりのまち宇治魅力発信プロジェクト』と題したプロジェクトに取り組んでいます。プロジェクトのホームページ、ツイッターもご覧ください。
ずっと源氏物語が気になっていた人も、すでにファンの人も、この機会に物語の世界にどっぷりハマってみませんか?
店舗・施設名 | 宇治市源氏物語ミュージアム |
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住所 | 京都府宇治市宇治東内45−26 |
電話番号 | 0774-39-9300 |
営業時間 | 9:00~17:00(入館は16:30まで) 休館日 月曜日(祝日の場合はその翌日)・年末年始 |
交通 | 【バス・普通車の場合】 大阪方面/名神大山崎J.C.T.または第二京阪久御山J.C.T.から京滋バイパスへ、宇治西I.C.から約10分(大阪方面からは宇治東I.C.で降りることはできません) 名古屋方面/名神瀬田東J.C.T.から京滋バイパスへ、宇治東I.C.から約5分 【電車の場合】 京阪/宇治線(京阪本線からは中書島乗換)宇治駅下車 徒歩約8分 JR/奈良線(京都駅~奈良駅)宇治駅下車 徒歩約15分 近鉄/京都線近鉄大久保駅からバス約15分 バス停京阪宇治下車 徒歩約8分 ※できるだけ公共交通機関をご利用ください。 |
駐車場 | 普通車 1台30分100円(15台分)/バス 1台1回2,500円 (バス駐車場は予約優先) |
料金 | 大人 600円(480円)/小人 300円(240円)※カッコ内は20人以上の団体料金 |
ホームページ | https://www.city.uji.kyoto.jp/site/genji/ |
Writer瀬田かおる
Writer瀬田かおる
本が好きすぎて読むだけでは満足せず、民間資格である「JPIC読書アドバイザー」を取得。ライターとして、本と読書に関する活動のアイデアを形にするため邁進中です。モットーは『地方に住んでても、何歳からでも、人は変われる!』
全国の個人書店、私設図書室を取材するのが夢です。
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