京都市役所のほど近く、お店の前を通る人はひょっとしたら「骨董などを扱っておられるところかな」と思うかも。―そんな落ち着いた佇まいの「まつは」は、西村めぐみさん・由香さん姉妹が、自分たちの手で築100年ほどの町家を改装したカフェです。
手作りのごはんもスイーツもおいしいと評判の「まつは」のお二人に、お家で楽しめるレシピを教えてもらおうと始まった当連載も第22回となりました。
ほっこり、ぽかぽか。気分も優しくなるようなお茶と素朴なお菓子を
「最近、朝、窓を開けたり、外に出ると、空気がしっとりとしているなと感じて、やっとそういう季節が来たなーっていう喜びがすごいんです」とめぐみさん。
とはいえ、まだ少し寒さも残っているので、今回の一品目は、体を温めてくれるお茶を用意してくれました。お店でも人気の「はっさく阿波番茶」のアレンジバージョンです。
「柑橘は、紅茶などのお茶と合わせると、渋みが際立ってしまいがちです。発酵茶である阿波番茶は、独特な酸味や香りが柑橘のはっさくと相性がいいみたい。ただ、阿波番茶はなかなか手に入らないので、今回はノンカフェインで、女性のための漢方薬としても知られている当帰(トウキ)のお茶を使ってみました」とのこと。もしも、ぴったりなお茶が手近にないときは、はっさくのシロップ煮(後ほどレシピを紹介)に熱湯を注いで飲むのも香りが良くておすすめだそうですよ。
今年の〝雨水〟は2月18日
雨水とは、雪が雨に変わり、氷が溶けて水になる頃、という意味。今年の雨水は2月18日、期間的には3月5日の〝啓蟄(けいちつ)〟までを指します。春の優しい雨が地面を潤し、草木の新芽が顔を出す様子を思い描くと、昔から、農耕の準備を始める目安とされてきたというのも肯けます。
ちなみに取材日は、由香さんはお弁当の配達で不在。仕出しのオーダーが入っているのも、なんとはなしに明るく、春の気配を感じるような…などと、話しながら、キッチンを覗くと、めぐみさんがやや苦戦気味。二品目の「ミルクの香りの小麦巻き」は、くるくると卵焼きのように巻いて焼くのですが、「実は私、ふだんはこんな風にしなくて。卵はくちゃくちゃに焼いて食べるのが好きなんですよね~」と笑います。そんな、和やかな会話の時間も、いくぶん寒さがやわらいだ季節にぴったり、という気がしました。
さわやかな香りと酸味が
お茶を引き立てます
●材料(作りやすい分量)
はっさく…1~2個
砂糖…好みの分量
水…適量
トウキ茶…適量
●作り方
(1)はっさくのシロップ煮を作る。はっさくは丸ごと、熱湯(分量外)で軽くゆでる。少し皮に透明感が出たら取り出して流水で洗い、水気を拭き取って冷ましておく
(2)半月切りにした(1)を小鍋に入れる。砂糖を全体が隠れるくらいまで加え、ひたひたに水を注ぐ
(3)弱火でコトコトと煮る。軟らかくなったら、出来上がり
(4)カップに、(3)を2枚とシロップ大さじ2を入れ、熱いトウキ茶を注ぐ
※はっさくのスライスは好みの厚さで良いが、あまり薄いと煮ているうちにバラバラになってしまうので、1㎝以上にするのがおすすめ
※お茶にブランデーやウイスキーを数滴垂らしても合う
※余ったシロップは、パンケーキやヨーグルトなどにかけてどうぞ。イチゴやキウイフルーツをマリネするのに使うと、甘みとともに良い香りがついておいしい
溶かしバター入りの生地を
くるくると焼き上げて
●材料(2~3人分)
薄力粉…50g
砂糖…大さじ2
牛乳…150cc
卵…1個
溶かしバター(有塩)…10g
シナモン…適量
●作り方
(1)ボウルに薄力粉をふるい、砂糖と合わせる
(2)別のボウルに牛乳と卵を入れ、泡立て器で溶き混ぜる。(1)を加え、ダマが無くなるまで混ぜる
(3)溶かしバターを加えてよく混ぜ合わせ、ラップをかけて20分ほど冷蔵庫で寝かせる
(4)熱した卵焼き器にバター(分量外)をひき、(3)を数回に分けて流し込み、卵焼きをつくる要領で焼いていく(火加減は弱めの中火)。くるくると生地を巻くときに、適宜シナモンを振る
(5)焼き上がったら、まな板の上などに置き少し冷ます(形が崩れるのを防ぐため)。輪切りにして皿に盛り、砂糖(分量外)をかける
※砂糖は「まつは」ではきび砂糖を使用
※写真は2人分
今回、使用した大皿は「まつは」の近くにある西洋民芸の店「グランピエ」(https://granpie.com/)で購入したそう。「どこの国かはちょっと分からないのですが中近東で作られたもので、この藍色がうるんでいるみずみずしい感じなのがお気に入り。雨で空気が潤っている今の季節のイメージに合うので選びました」とめぐみさん。なお、この大皿の雰囲気に、「乳製品の香りがするお菓子が合わせたいな~」と「ミルクの香りの小麦巻き」を作ることにしたといいます。器先行でメニューを考えるというのも、素敵ですね。
この時期、めぐみさんはお店を始めたころのことを思い出すのだとか。「2014年2月25日にオープンしました。そういえば、そのとき店先に小さなひな人形を飾ったのですが、ショーウインドウの後ろ側から出し入れしていたら、左右が分からなくなっちゃって。ものの5分も経たないうちに、『おひなさまとお内裏さまが逆ですよ』って教えてもらったこともありました(笑)。もう7年前になりますが、二人で直向きにがんばっていたのを思い出して、しみじみとすることもあります」(めぐみさん)
8年目もさらにその先も、気軽にくつろぎながら美味しいものをいただける空間として、お二人のペースで進化を続けてほしいです!
現在、新型コロナの感染拡大予防の緊急事態宣言が解除されるまでは、お店はテイクアウトで対応予定とのこと。毎日、5種類くらいお惣菜などを用意し、火曜日~金曜日の午前11時~午後3時に販売されています。おかずとしても優秀ですが、お酒にも合うラインナップなので、組み合わせて自分用の家呑みセットを作るも良し。売り切れ次第終了ですよ。
▲「見ているとすごく元気が出る、この色使いが素晴らしいんです」(めぐみさん)
▲普段はデザートやお料理を入れるガラスの器に「はっさくトウキ茶」を。透明感がありつつ、少しどっしりとしたフォルムが〝春に飲む温かいお茶〟と合いますね
▲乾燥トウキは、やかんや小鍋に水と共に入れて沸かし、弱火で5分ほど煮出します。お風呂に入れてもいいのだとか
▲めぐみさんが誕生日に友人からもらったというチューリップとカスミ草。日ごろは和テイストの花が飾られていることが多く、少し新鮮な雰囲気ですが、これも華やかでいい感じ
―次回は〝啓蟄(けいちつ)〟をイメージしたお料理のレシピをお届けします
店舗・施設名 | まつは |
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住所 | 京都市中京区二条通富小路東入ル晴明町671 |
電話番号 | 075-231-7712 |
営業時間 | 10:00~17:00(LOは16:30) ※17:00以降の利用については要相談。電話やメール(matuhairoiro@gmail.com)でお問い合わせください。 【日曜・月曜休。都合により臨時休業、長期休暇あり】 |
交通 | 地下鉄「京都市役所前」駅から徒歩約6分 |
ホームページ | https://www.matsuha225.com/ |
Writer市野亜由美
Writer市野亜由美
京都のおいしいお店を訪ねるのが好きなライター。レシピ記事が得意。
今回は、自身のお気に入りのお店「まつは」の西村めぐみさん(写真向かって右側・姉)、西村由香さん(同左側・妹)の協力を得て、簡単に作れて、ワクワクするようなレシピを連載する夢が叶いました。
「お茶をするのも、お酒を飲むのも、ぼーっと過ごすのも好き」という西村姉妹が切り盛りする同店は、2020年2月で6周年。良い塩梅(あんばい)に、かしこまり過ぎず、丁寧につくられた食事やスイーツ、おつまみにファン多数。
WEB:https://www.matsuha225.com/