2020年4月―。
新型コロナウイルスの感染者が毎日のように増え、流行が全国的に高まっていたある日のこと。
京都でものづくりに携わる35社が集まる「京都試作ネット」に、京都府ものづくり振興課の鴨井さんから相談が入りました。
「どなたか、医療用ガウンを作ってもらえないでしょうか」
「医療用ガウンですか」
「京都試作ネット」が請け負うのは機械・金属・樹脂・ゴム・システム・基板などの試作加工であり、医療用ガウンは専門外でした。
「何とかしたい」
この話を聞いた京都試作ネットの会員、ヒロセ工業株式会社(京丹後)の廣瀬社長は強く思いました。
仕事でも本業以外でも、お客様から持ちかけられれば、どんなことでも相談に乗ることにしているという廣瀬社長。この件を自社の顧問であるデザイナーで、スパッジオワークスを主催する鈴木尚和さんに相談しました。
「どこか医療用ガウンを作れるような知り合いって、いないですか」
これを聞いた鈴木さんは驚きました。
造形作家で空間デザイナーの自分に、まさか医療用ガウン製作の相談が来るなんて思ってもいませんでしたから。
廣瀬社長が言うには、世界的なコロナウイルス流行のため海外からの輸入も滞っており、また国内で作っても安価な海外製にはとても太刀打ちできない、ということでした。
廣瀬社長の話を聴いて、鈴木さんは立ち上がります。
「こんな緊急事態に備えて、今後はメイド・イン・ジャパンのガウンを作れるようにしておかなくては!」
「心当たりがあるから」
鈴木さんは廣瀬社長からの電話を置くと、さっそくガウン製作に向けて動き出しました。そして協力してくれそうな会社を探しているうちに、四国の東かがわ市にあるフィルムメーカー・日生化学株式会社に辿り着きました。
日生化学は、大手テーマパークのショッピングバッグや各地のマラソン大会など、イベントで配布するバッグを手掛けています。そのため自社でフィルムを筒状に加工することも可能でした。
しかしテーマパークが休業し、大きなイベントが次々中止になると、バッグ類の発注も徐々に減ってきていました。
同じころ日生化学の田中社長は、医療用ガウンの不足から医療従事者の方が、ゴミ袋を被って働いているシーンをテレビで見ました。
「医療用ガウンが大変不足しているのを見て、なにか社会に貢献できることがないかと検討し始めていました」
田中社長が医療用ガウンに代わる商品の開発を始めていたまさにその時、鈴木さんから電話がかかってきたのです。
「鈴木さん、実は私も医療用ガウンに代わるものが当社で作れないか、考えていたところなです。うちなら、フィルムからオリジナルで製造できますよ」
田中社長は描きかけていたフィルム製ガウンのイメージを写真に撮って、すぐに鈴木さんに送りました。
意気投合した二人はオンラインで打ち合わせを重ね、ガウンの仕様を固めていきます。
ガウンに使用するフィルムには抗菌剤を入れ、フィルムそのものに抗菌作用を持たせました。そのため黄色ブドウ球菌や大腸菌などの繁殖を高い確率で抑えることができます(抗活性菌値4※抗ウイルスについては現在研究中)。
フィルムは厚みや強度調整のため、2度、3度と試作しました。
厚みがあるとガサガサと音がするし、薄すぎるとちょっとしたことで破れやすくなります。
丈夫であると同時に着脱もしやすくという点で苦心しましたが、最終的には背中から簡単に破れる方式に辿り着きました。
さらにウイルスの侵入を極力減らせるよう、細部にまで配慮してデザインしています。
こうして緊急用医療ガウンが完成しました。
また京都府が呼びかけた京都府内の多くの企業の協力もあり、危惧していた医療ガウン不足解消への一助となりました。
京都府ものづくり振興課の鴨井さんは、この時のことを次のように振り返ります。
「危機に対して素早く動けたことが何よりでした。京都には多種多様な産業があり、色々なものを作っています。それらを応用することで医療用ガウン不足もスピーディに対応できました。やはり京都は技術と知恵が集まる場所だと感じます」
今回のことで知ったのは、京都には医療から工作物まで多彩な産業が偏りなくあり、ものづくりの底力があるのだ、ということ。
わたしたちデジスタイル京都でも、今後ものづくりに関わる色々な京都の企業を紹介していきたいと思いました。
“京都を試作の集積地に!”と目標を掲げる「京都試作ネット」がどんなことに取り組んでいるのかも、気になりますね。
※…抗菌活性値2.0 以上(99%以上の死滅率)で抗菌効果があると規定されている。
Writerデジスタイル京都スタッフ
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タカラサプライコミュニケーションズではたらく京都大好きメンバー。 定番から穴場まで、幅広いKYOTOの情報をお届けします!
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