この最中種、ちょっと粒が入っているのが見えますでしょうか?
実はナッツペーストとの相性をよくするために、種にもカシューナッツ、アーモンド、クルミの粉末を混ぜ込んでいるんですって!
和菓子屋さんの最中は、種の柄や形、あんこの種類や味、一緒に挟むものでオリジナリティを出すのが一般的ですが、種の味から遊べるのは種嘉商店さんならでは。
種だけで食べてもめちゃくちゃおいしい。
「種嘉では滋賀県産羽二重の餅米粉にこだわって、種を作っています。2代目の義父も、3代目である夫も昔ながらの頑固職人ですから、餅米粉以外の混ぜ物をすることへの抵抗は大きかったみたいですね」
———確かに、他の食材を混ぜたり、3D感のある独特な型の最中種は珍しいですよね。
「これまで、他の食材を混ぜることはほとんどありませんでした。混ぜ物をすると型から外れにくくなったり、奥行きがあると焼きムラができたりするので。貴重な型を傷めることを職人は嫌がりますからね」
———「種実最中」の型はもともと所有していたものですか?
「うちには全国の種屋さんでも使っている既製品の型と、卸先の和菓子屋さん専用の型がありますが、今回は新たにオリジナルでつくりました。鋳造の型屋さんが減少していて、型の作成に時間がかかるということで、知り合いのあんこ屋さんに紹介していただいたのが、なんとロケット資材の会社さんで(笑)」
———え!ロケットって宇宙に行くロケットですか?
「そう。コンピュータで設計図を作成するから、追加で型が必要な時もすぐ出来るよって言われて。でも、設計が精密すぎて、うちのガタガタいうてる焼き機との相性がよくなくてね(笑)。ぴったり完璧すぎても、あかんのです。何度も調整が必要でした」
クセのある道具って、ちょっとした“ユルさ”や“アソビ”があるくらいが職人技とも相性がいいんでしょうね。
それにしても、このアルミ合金も宇宙に行くと思てたら最中種を焼くことになって、さぞびっくりしたのでは。でもこれは最中の未来にきっと繋がっていくはず・・・!
ナッツを混ぜ込んだ最中種はおそらく日本初!だそうで、それってすなわち世界初で宇宙初なんじゃないでしょうか。
あと、最中種ってちょっと宇宙食っぽくもある。
———種に混ぜるのはナッツの粉末以外にも、いろいろ試されたんですか?
「もともと、あんこにピーナッツバターは合うっていう意見があったんです。でも、アーモンドペーストだけはノーマルな種と相性がイマイチで、一旦却下になりました。そこで、種の方を変えるべく今まで入れたことのないものを入れてみよう!って流れができたんです。ドライフルーツは大失敗でしたね。型がベトベトになって、二度とやるなー!って怒られました(笑)。海老の粉末はうまくいったけど、ただのおいしい“えびせん”が出来上がっただけ。ただ、最初は抵抗していた義父や夫も、最後の方はなんだか吹っ切れていましたね」
———6月のオープンというタイミングは予定どおりだったのでしょうか?
「2019年の5月から準備をスタートして、本来は今年の3月にオープンの予定だったんです。でも、型の調整や、種の開発にもまだ時間が必要でした。コロナ禍で工事も遅れており、なんとか形になったのは4月頃でしょうか」
———でも、ちょうどその頃から自粛ムードが加速しますよね。
「そうなんです。あの時期は雰囲気的にも開けるに開けられなくて。でも、それまでバタバタと忙しくしてたのに、フッと2ヶ月間ほど時間に余裕ができたのが良かったのかも。細かい部分を煮詰めることができたんです。ワックスペーパーで個包装をするアイデアもこの期間に思いつきました。そうこうしているうちに、周囲から『オープンはいつ?楽しみにしてるよ』とか『何か手伝おうか?』と新しいことを始めようとしている私たちを応援してくれる声が届くようになって、よし今だ!とスタートを切ったんです」
自粛で休業したまま閉店や廃業というニュースも多い中、新しいことが始まるワクワク感はみなさんの希望になったんでしょうね。
もともと、大口の卸先の受注が大幅に減少したのがきっかけで、自分たちの手でお店をすることになった種嘉商店さん。現在も卸業を続けながらの店舗営業となるため、週4日の営業になりますが、すでにたくさんの常連さんがいらっしゃるご様子。
芳子さん曰く、絶望感で病んでいた約一年前とは全く人生観が変わったそうです。
「実は私、6人きょうだいの5番目なんです。昔から自分のことは自分でしなさいという環境が当たり前だったので、誰かを頼ったり、指示を出したりする経験が新鮮ですね。人前に出るタイプでもなかったのに、今はお店でいろんな方と関われるのが本当に楽しいし、やって良かった!と思っています」
「混ぜ物をすると焼き上がりが硬く締まる」という通り、今までにないパリッと硬めの香ばしい種と濃厚なナッツの風味、そして粒をやや潰し気味に仕上げたあっさり目のあんこのバランスが絶妙の「種実最中」。
あんこにナッツを混ぜ込むのではなく、ハーフ&ハーフ的に詰めることでそれぞれのナッツの個性の違いを際立たせ、組み合わせの違いがハッキリと感じられるようになっています。
人によっては一口でもいけるのかもしれませんが、私には程よいふた口サイズ。
一口目で驚いてから、もう一口あるのがうれしいんですよね。
でも口がおいしさを知っているから、ふた口目はあっという間になくなります。
みなさんも3種類を食べ比べて、大食いギネス記録2個をぜひ更新していただきたい。
ほら、そろそろ「最中の口」になってきたんじゃありませんか?
店舗・施設名 | 種嘉商店 京都最中 |
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住所 | 京都市中京区車屋町通二条下ル仁王門突抜町317 |
電話番号 | 075-201-3016 |
営業時間 | 11:00〜17:00 木・金・土曜休 |
交通 | 地下鉄「烏丸御池」1番出口から徒歩5分 |
ホームページ | https://taneka.jp/ |
Writerかがたにのりこ
Writerかがたにのりこ
あんこをこよなく愛し、月に2回は自宅で餡炊きをするフリーライター。 元・漉し餡党、現在はあんこ博愛主義者。