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2020.03.06

京都を舞台にした小説をはじめ、京都を案内する本、京都の歴史や文化について解説してある本などなど、47都道府県ある中でも「京都」ほど取り上げられている都市はないのではないでしょうか。この連載では、京都で活動するライター2人が交代で、何かしらのカタチで京都が登場する本&本を通して見る「京の町」を紹介します!

 

今回の担当=油井やすこ

 

京都市動物園を支えた飼育員の温かな視線

 

 

 


『京都市動物園 飼育係ものがたり スパイホール』(高橋鉄雄/京都新聞出版センター)



 

 

動物が好きなら、一度は動物園の飼育員という仕事に憧れを抱くのではないだろうか。私もその一人だった。遠くアフリカに住まずとも、そこにはライオンがいてキリンがいて、シマウマがのんびり草を食んでいたりする。カッコいい動物たちをペットのように愛玩するのではなく、対等に接することができればどんなにカッコいいだろう。愛読書が『シートン動物記』や『ドリトル先生』シリーズだった影響もあり、将来は動物学者か獣医さんか、それが無理なら飼育員さんになろうと思っていた。しかしその夢は、「学者さんや獣医さんは解剖せなあかんし、飼育員さんはウンチの掃除もするんやで」という現実を生きる母の一言であえなく終了。言うことが壮大な割にヘタレな私のことを、母はよく見抜いていたのだと思う。

『京都市動物園 飼育係ものがたり スパイホール』(高橋鉄雄/京都新聞出版センター)は、京都市動物園の飼育員を45年にわたって勤め上げた高橋鉄雄さんの飼育体験を綴った一冊である。本書では、高橋さんがまだ飼育員になる以前に育てたメジロにはじまり、さまざまな動物たちの飼育エピソードが16章にわたって紹介されている。

檻の中で飼われているからといって、動物たちは決して人間に従順なわけではない。高橋さんは「気のきつい」鳥たちに飛びかかられて流血し、ゴリラに糞やゴミを投げつけられ、さらに蹴りや体当たりを食らいそうになる。おとなしいイメージのキリンでさえ「早く近づきすぎると後脚での回し蹴りがくる」から油断ならない。ゴリラが蹴った鉄筋の棒が「グニャッと外側に曲がってしまった」というくだりは、どれほどの力の持ち主なのかと読みながら震え上がってしまった。動物が柵を出てしまったというヒヤヒヤもののエピソードもある。のんびりと園内を散策し、「かわいい」とか「癒やされる」などと気楽につぶやく私たちの裏で、飼育員さんは命がけで働いているのだ。

キツくて恐ろしい話ばかりではもちろんなく、一番近くで動物たちを見守っているからこその貴重な体験もたっぷり描かれている。京都市動物園は繁殖に力をいれていることで知られていて、特にゴリラは国内初の3世代飼育にも成功している。そんなゴリラの繁殖の様子、中でも3世の京太郎が産まれるエピソードは、細やかな描写で紹介されていて感動的だ。「やがて陣痛が始まり、次第に激しく苦しみ、シュートから部屋に戻り、一気に出産、8時41分でした。ヒロミは、赤ちゃんを左手で受け取り、すぐになめ、ちゃんと胸に抱いたのです。すると間もなく青白い赤ちゃんの顔がやがて赤くなりました。大丈夫、元気です。」

本書を読みすすめるほどに、動物たちが快適に過ごせる環境を作り、地道な観察を続ける飼育員さんの日々の努力が、動物園という場所を形作っているのだとわかる。

本書には、高橋さんによるイラストや写真もたくさん載っていて楽しい。高橋さんが描いたゴリラのイラストは、1983~2018年まで動物園のロゴマークにも使用されていたそうだ。飼育員同士の会話や、来園者とのやり取りは京都弁(あえて京ことばではなく)でリアルに再現されている。「おっちゃん!タヌキいいひんでー。どこや!」(中略)「タヌキが化けておっちゃんになって掃除しているんやー」

子供たちの好奇心とたくましさにも感心し、思わず笑う。飼育員さんになる夢はあっさり諦めた私だが、本書を読み終えてまた足繁く動物園に通いたくなったのだった。

 

本を通して見る「京の町」

 

 

キリンとシマウマが仲良く暮らす「アフリカの草原」

 

ケープハイラックスの「チィ」は2019年度の特任園長を務めた人気者

 

1903(明治36)年、日本で2番めの動物園として開園した京都市動物園。平安神宮や南禅寺、京都市美術館、ロームシアター京都など、歴史ある社寺や文化施設がある岡崎エリアに位置する。園内ではニシゴリラやゾウ、キリンなど、100種以上の動物を飼育している。ミニ観覧車や遊具、動物図書館もあり、京都市民の憩いの場となっている。

Information
店舗・施設名 京都市動物園
住所 京都市左京区岡崎法勝寺町 岡崎公園内
ホームページ https://www5.city.kyoto.jp/zoo/

Writer油井やすこ

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Writer油井やすこ

京都郊外在住ライター。幼少期の一番のお気に入りスポットは図書館。現在の趣味は積ん読。怖がりなのに怪談やミステリも読めるようになり、ようやく大人になったと感じている。
WEB:https://abunco.com/
Twitter:@aburaisan

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