あじき路地の入居は、「住みながらものづくりをすること」が条件。空室が出ると全国(ときには海外)から応募が殺到します。まずは、あじき路地でどんな活動がしたいか、夢や目標を綴った書類で審査。その後、おかあさんとの面談の際には、自身の作品を持参してアピールする人も少なくありません。そして、おかあさんのお眼鏡にかなった候補者について、既存の店子メンバーたちとの話し合いの場が持たれます。そこでひとりでもNOが出たら入居は丁重にお断り。
「やっぱり、一緒に住んで、共にものづくりをしていく仲間ですから。全員一致で賛成して迎え入れてあげたい」と、おかあさん。過去には、三度目の正直で入居が叶ったというケースも。
とはいえ、「住む」のはなかなかハードルが高い! そこで、平屋の南2(=南側の入口から2番目の家)では、週替わりでさまざまなお店がオープン。取材時は、一番の古株となった長男けんちゃん(注:あじき路地の店子は兄弟姉妹のように、おかあさんから長男長女次女三女……と位置づけられていて、既に卒業していった元の住人は初代長男、二代目長女といった呼ばれ方をします)よりも長い歴を誇る爪掻きつづれ織りユニット「織家まりきこ」の石川真理さんと岡本真紀子さんがいらっしゃいました。
あじき路地とのご縁は11年目を迎え、その間、お休みしたのは台風でのたった一度きり!という熱烈な“あじきファン”でもあり、結婚出産ときには病気といった互いの状況にも柔軟に対応しながら、直向きに「織り続ける」ことを大事にされているお二人。
爪掻きつづれ織りとは、織師が爪先を鋸の歯のようにギザギザにして、文様となる糸を一本一本掻きよせて織っていく技法のこと。爪つづれ、本つづれなどとも呼び、「日に寸、五日に寸、十日に寸」と伝えられるほどの月日を要し、高い技術が求められます。複雑な文様となると一日にわずか数㎝しか織り進められないほどで、技術力に加えて根気や集中力も欠かせない織物です。
一般的なのは、やはり帯や草履の鼻緒といった着物にまつわるアイテムですが、呉服業界が斜陽な昨今、それだけでは厳しいのが正直なところ。
「つづれ織そのものを知ってもらいたいという気持ちから、手に取りやすい、使いやすい物をいつも考えています」という言葉通り、鞄やアクセサリー、スマホケースや時計など、カラフルな図柄のふだん使いできる作品が並びます。
女性らしいアイデア、洋服にも合わせやすい色柄の図案、美しく繊細な織り目……丁寧な手しごとが窺える品々の中で、わたくしが最も目を奪われたのは、町家の意匠に店名が入った看板!(非売品)
そう!!!これ、全部つづれ織りで出来ているのです!!!!!
すっげーーーーーーーーーーーー。
あ、失礼……興奮して海賊王になるため冒険中の某アニメキャラみたいな口調になってしまいました。
「ママさんや店子さんたちの温かさが大好きで、親しみを感じながらも、毎回新鮮な気持ちで出店させてもらっています。売れずに残っても全てお気に入りなので、自分のものにできるのがうれしいくらい(笑) だからこそ、気に入ってくださったら喜んでお譲りしたいですし、長く愛用して欲しいと願っています」
取材中、「織り続けるためには資金が必要。だからこそ作品が売れることの大切さを痛感している」という言葉に、しみじみいたしました。「仕事のモチベーション8割お金!」が、わたくしの流儀ゆえ。
次に訪れたのは、末っ子・村松佳奈さんのお店。手製本ノートと紙こものを扱う「すずめや」は、紙が大好きなおかあさん念願の新入りさんで、これまた紙好きなわたくしも小躍りしてしまう欲望渦巻く空間。その匂いといい、手触りといい、たまりません!!!
什器として使われている新潮文庫の本棚ごと抱えて持って帰りたいくらいですわよ!
「ちいさくて、いつもそばにいて、さえずっている。そんなすずめのようなものづくりを心がけて」付けた名が、なんだか身近なかんじがして好感が持てます。紙を折るところから機械は使わず、すべて手作業。「物語が始まる本しか扱わない」というスタンスもすてきです。
色のにじみ具合ですべてが一点物というノートの表紙も、もちろんお手製。
あれこれ試しながら、完成までの工程を愉しんではるんやろなぁと思わせてくれるところが、これまたニクイ。手しごとならではの風合いが、ちょっとした特別感を生み出しています。ノートはどれも無地なので、何を書くのも自由。貼ってもいい、塗ってもいい。愛着が持てる一冊と出合えるかもしれません。
そんな「すずめや」さんでは、わたくしが構成・取材を担当した10周年記念本「あじき路地で暮らす。」とその後、路地入口北にあるギャラリーで展覧会をした際に作った続編のようなパンフレットも買えちゃいます♪
その他、北8で2017年秋から店を構える「MATSUSHIMA leather handmade」には、ところ狭しと積み上げられた素材に埋もれながら全工程を手作業で製作した革小物がずらり。ここで腕時計のベルトをお願いしたところ、縫い目がとても美しく均等で、丈夫なこともあり、大変気に入っております。
一番人気の手帳型スマホケースも、ほらご覧のとおり。
財布やキーケース、カメラストラップなどいろんな商品があり、ないものはオーダーも可能ですので、「あら、革にはちょっとうるさいわよ?」という方はぜひ訪れてみてください。
2018年1月よりスタートしましたこの連載。お付き合いに感謝しつつ、2019年も何卒よしなにお頼み申します。
それではみなさま、どうぞ良いお年をーーー!!!
▲ええ、ええ、長女のごとき貫禄なのは否めませんが、わたくし住んではおりませんのでご承知置きのほどを。2018年12月現在、路地では3軒の空家で入居者募集中! 詳しくは、あじき路地Twitter @info_ajikiroji をご覧あれ。
店舗・施設名 | あじき路地 |
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住所 | 京都市東山区大黒町通松原下ル2丁目山城町284 |
電話番号 | 店舗により異なる |
営業時間 | 店舗により異なる |
交通 | 店舗により異なる |
お問合せ先 | info@ajikiroji.com |
ホームページ | http://ajikiroji.com/ |
Writer椿屋 山田涼子
Writer椿屋 山田涼子
京都拠点の映画ライター、グルメライター。合言葉は「映画はひとりで、劇場で」。試写とは別に、年間200本以上の作品を映画館で観るシネマ好き。加えて、原作となる漫画や小説、テレビドラマや深夜アニメまでをも網羅する。最近Netflixにまで手を出してしまい、1日24時間では到底足りないと思っている。
Twitter:@tsubakiyagekijo