京都市内で田畑を見る機会がめっきり減ってしまいました。郊外に行けばまだありますが、京都市の中心部では、航空写真で調べてもそう簡単には見つかりません。今や、都市部にとって、田畑は貴重なものとなっています。
今回は、中京区西ノ京や右京区花園等の京都市中心部で年間約70種類の野菜を栽培し、自宅で軒先販売をされている佐伯昌和さんをご紹介します。
佐伯さんの畑は、京都市中京区に1ヶ所、右京区に2ヶ所、伏見区石田に1ヶ所、亀岡市に1ヶ所あり、販売する多くの野菜を京都市中心部で作っています。
「京都に田畑が無くなれば京野菜は無くなります。京都には元々からのええ畑がたくさんある。それを残していかないと」という佐伯昌和さんは5代目。「都市の畑は防災空間にもなるし、地域の学校で食育にも役立ちます」と、市の中心部に畑があることの意義を語ります。
都市部の農地は自然に減っていったのではなく、政策的に減少させられてきました。
1968年に制定された都市計画法に「すでに市街地を形成している区域及びおおむね十年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」とする市街化区域が定められ、区域内にある農地への宅地並み課税も相まって、都市部の農地は減少し続けてきました。
2015年に「都市農業の安定的な継続を図る」ことを目的に制定された都市農業振興基本法がそうした政策の転換点となります。「都市農地の有効な活用及び適正な保全」「市街地形成における農との共存」といった基本理念が盛り込まれ、都市農地の宅地化を前提とした政策の転換が図られました。
佐伯さんは、野菜を作るときに季節感を大切にしたいといいます。
「ハウス栽培で季節に関係なく野菜が作れるようになり、食べ物の季節感がなくなってきています。都市に畑があることで、旬や季節を感じることができる。季節感を大切にすることは環境を大切にすることにもなる」との思いで、ハウスは使わず常に旬の野菜を販売しています。
もう一つ、佐伯さんが京都市中心部で野菜を栽培する大きな理由がありました。
毎年10月1日から5日にかけておこなわれる北野天満宮の瑞饋祭。ずいき(里芋の茎)をはじめとした野菜や果物で飾られた神輿には、佐伯さんの作った野菜も使われています。
(注)瑞饋神輿は10月1日から4日まで見ることができます。
もし、この地域から農地がなくなれば、五穀豊穣を願う地元の祭りに地元の野菜を使うことができなくなってしまいます。
「農民と職人がコラボしたのが瑞饋神輿。農民がいなくなるわけにはいかない」と佐伯さん。
佐伯さんは農業を始めて40年目。
30年ほど前から化学肥料を使わない農業を続けています。
「植物にとって、化学肥料の成分である窒素やリン酸、カリウムという栄養素自体は変わらないかもしれないけど、土の中の微生物にとってどうなのか、微生物の住処を人間が奪うことになるのではないかと考え、化学肥料を使わない方向に変えた」といいます。また、肥料には遺伝子組換え作物を原料とするものが多い中、遺伝子組み換えでないなたね油のかす主体の肥料を使用しています。
化学肥料だけでなく、農薬も一切使わない栽培にもこだわりがあります。
「農薬というと、子どものころベトナム戦争で枯葉剤が使われた映像が頭にあります。農業を始めたころに除草剤を使ったことがあって、緑だった葉が次の日に茶色く枯れていました。それを見るのが嫌で1983年に除草剤をやめ、1999年から農薬を一切使っていません」
栽培する野菜の中でも、京の伝統野菜を中心とした10種類ほどの野菜は、種を買うのではなく自家採種をしています。畑でできたその年の一番良い野菜を残し、種を次の世代に繋げます。そうすれば、種の段階で農薬が使われているかも、という心配もありません。
農薬や化学肥料を使わず育てた野菜。佐伯さんは、今、一つ心配なことがあるといいます。日本海側に立地する原発にもし何かあれば、佐伯さんの畑も大きな影響をうけます。中部や関東地方に住む友人には、福島第一原発事故の影響で出荷できなくなった農家さんもいるといいます。佐伯さんの畑の周囲に田畑は無いので、佐伯さんが農薬や化学肥料を使わなければ農薬・化学肥料はなくなります。
しかし、「原発はもし何かあれば、自分の努力ではどうにもならない。一瞬で今までの努力がひっくり返ってしまう。そういうリスクのあるものに頼る生活は変えていかないと」と語ります。
>この佐伯さん野菜は直売所で買えるんです!直売情報&おすすめレシピ
店舗・施設名 | 京やさい 佐伯 |
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住所 | 上京区御前通仁和寺街下ル西側 |
電話番号 | 075-463-6627 |
営業時間 | 9:00~18:00 定休日:日曜日、祝日 (注)年末の最終日曜日は営業予定 (注)1月1日~6日は休業します。 |
交通 | 京都市バス「大将軍」バス停 下車徒歩約7分 |
Writer津田壮章
Writer津田壮章
珍しい食べもの、刺激的な調味料、素材の味が生きている食材等々を見つけたら、つい買いあさってしまう京都在住フリーライター。写真も撮ります。 最近は、うまいコーヒーを飲むためにコーヒーの焙煎機を購入し、生豆から日々焙煎中。
WEB:https://htbtp777.wixsite.com/photo-takeaki-tsuda
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