最後に紹介するのは、1963年から東寺のお膝元で映画ファンたちに愛されてきた「京都みなみ会館」さん(わたくしは「みなみ」と呼ばせていただいております)。閉館情報が解禁になったのは、2017年12月1日の映画デーでございました。〔京都みなみ会館 閉館のお知らせ〕という記事を目にした多くの人が、わたくし同様「ひっ」と息を呑んだことでしょう。
「会社から聞いた瞬間、私もひっ!ってなりました」と苦笑しながら告白してくださったのは、館長の吉田さん。
閉館の理由は、避けられない老朽化。
「数年前から実感はあったんです。雨漏りもしてましたから……」。移転するよりも圧倒的に費用が嵩むため、耐震工事をしてでもこの場所に拘るという選択肢を諦め、2018年3月31日の閉館を決定されました。
さて、わたくしがレイトショーに足繁く通った「みなみ」。1000人を超える会員に支えられ、年間300本もの上映数を誇ります。セレクトの魅力は、その雑多感(笑)。ゴダール(※1)の名作を粛々と流したかと思えば、ゾンビ映画にドキュメンタリーまで網羅し、スプラッタや巨匠特集へのリクエストなども届く守備範囲の広さ。「うちで『これを観た!』とおっしゃる作品が人によってあまりに違うことに驚かされます」と、それすらも誇らしげに笑う吉田館長が、初めてみなみ会館を訪れたのは高校生のときなんですって。「カルトっぽいものや、小道具や衣装が目に愉しいものが好き」だという少女にとって、同館のセレクトは心揺さぶるものでした。
少し背伸びして単館系映画館を訪れ、ツウな映画人たちに交じって小難しい洋画を観た過去は、映画好きに育った多くの者の人生に刻まれているはず。かくいうわたくしも、そんな自分に内心「ふふん」と鼻を高くしながらいそいそと映画館に通ったものです。そんな貴重な空間が消えてしまうのは、嗚呼、なんとも切ない。
「映画は人に観てもらって完成する」
それが、吉田館長の信条。
そして、「愛情をかければかけるほど、作品は育ってくれる」。
これもまた、彼女の実感なのです。
「一人でも多くの人に観てもらいたい良作は、ポスターをあちこちに貼らせてもらったり、ことあるごとに話題に出して口コミで拡げたり。とにかくアピールしまくります!」
素晴らしき映画愛あふれる吉田館長、必ずや新たな場所での再開を誓われているものの、取材時には「まだ最後の1週間のスケジュールを組んでいるところで、まずはそれをやり切ってからでないと先のことを考える余裕がないのが正直な気持ちですが……映写機はあるので、移動映画館とかできたらいいなぁとぼんやり思ってます」とのこと。
いいですねぇ、天気に左右される、夜空の下で観る活動写真。風流極まりない。
「ラスト6日間で36本の上映を予定しているので、空いている時間にお立ち寄りいただいてみなみ会館を惜しんでもらえたら。どれを観ても絶対に面白いと保証します! 映画ならではの一期一会を愉しんでください」という力強い言葉を聞きながら、久しぶりにオールナイトも悪くないなと思っていたら、
「オールナイト明けこそお客さんの反応がダイレクトに感じられるんですよ。1本ではそこまでさらけ出せなくても4本くらい同じ空間で一緒の時間をすごすと変な共感が生まれるんでしょうか。満足してもらえたときは、満足感がリアルにロビーまで流れてきて、普段は話をしない常連さんが自然と声をかけてくれたりして。そういうときは、やってよかった!と鳥肌が立ちます」なんて言われ、気づけばスケジュール帳に手が伸びておりました。おほほほ。
ところでわたくし、「映画はひとりで」をモットーとしているのですが、雰囲気あるみなみ会館のような劇場であれば意中の殿方と行くのもやぶさかではございません。
そうそう、デートといえば、同館は『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』のロケ地にもなっているのです。(やっとロケ地めぐりらしい話になりましたわ・笑)
主人公が友人から勧められ、デートで訪れる場所のひとつとして登場しています。
撮影は、早朝(というかド深夜)から行われたため、「スタッフに頼むのも心苦しくて、弟に相談したら、小松菜奈ちゃんマジ見たい!って前のめりで手伝ってくれました(笑)」とのこと。弟さん、気持ち分かります。わたくしだって、男前の俳優さんに会えるなら丑三つ時にだってタクシーで駆けつけますともっ。
「菜奈ちゃん本当に可愛くて、わ~!ってなってるうちに撮影が終わっちゃいまして。後になって宝ヶ池駅のベンチ(※2)にサインがあるのを知って、頼んでもよかったんやんかー!!って後悔しました~(涙)」と、お茶目な一面も。
そんな吉田館長が妥協なく選び尽くしたラスト1か月の上映作品を、どうぞお見逃しなく。
▲2年前からイベントなどで訪れた映画関係者たちが書き込みを増やしているドアと壁。
「シネコンの便利さに負けてすっかりご無沙汰していたら、こんなインスタ映えするスポットになっていたとは!……ぐぬぬぬぬ、不覚なり」
※1 ジャン=リュック・ゴダール。フランス・スイスの映画監督であり、プロデューサーや批評家、俳優としてなど多数の顔を持つ。受賞歴も華々しく、代表作は『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』、クエンティン・タランティーノが『パルプ・フィクション』でアイデアを拝借したことでも知られる『はなればなれに』など。
※2 叡山電車(https://eizandensha.co.jp/)の叡山本線と鞍馬線の乗り換え駅。主人公が「一目惚れしました!」と告白するシーンが撮影された。ちなみに、宝ヶ池公園もロケ地として登場。数日間のロケ中、池の水が凍ってしまうハプニングに見舞われた際には、スタッフがスワンボートに乗り込んで氷を割っていったという微笑ましいエピソードも。
店舗・施設名 | 京都みなみ会館 |
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住所 | 京都市南区西九条東比永城町79 |
電話番号 | 075-661-3993 |
営業時間 | 作品により異なる |
交通 | 市バス九条大宮より徒歩2分 近鉄当時駅より徒歩5分 JR京都駅より徒歩20分 |
料金 | 作品により異なる ※各種割引あり |
ホームページ | http://kyoto-minamikaikan.jp/ |
Writer椿屋 山田涼子
Writer椿屋 山田涼子
京都拠点の映画ライター、グルメライター。合言葉は「映画はひとりで、劇場で」。試写とは別に、年間200本以上の作品を映画館で観るシネマ好き。加えて、原作となる漫画や小説、テレビドラマや深夜アニメまでをも網羅する。最近Netflixにまで手を出してしまい、1日24時間では到底足りないと思っている。
Twitter:@tsubakiyagekijo