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2017.10.19

みなさま、こんにちは!

京都ミステリーハンター すみゆうこです。

 

涼しげな空気が差しこむ秋になると、誰かの温もりを求めて、人肌恋しい気分になったりはしませんか?

私は毎年この季節になると、いつもは全く観ない、読まない「恋愛モノ」にやたら食いついてしまうのです。

 

良いですよね、恋って…!

だけど、恋は決して楽しいだけではありません。

時に人を狂わせ、ガラリと人生を変えてしまうほどの威力を持っています。

 

今回は平安期に起こった、そんな悲しい恋のお話が眠る「恋塚寺」に足を運びお話を伺ってみました。

 

京都市伏見区下鳥羽にある“かやぶき屋根”の門構えのお寺。名前を「恋塚寺」と言います。

可愛らしい名前から、「通称か?」と思われますが、れっきとした正式名称です。

さて、恋塚というだけあって恋にまつわる歴史があるのですが、一体どんなお話なのでしょうか。まずは恋塚寺にまつわる恋の伝説を簡単にご紹介いたしましょう。

 

 

平安末期、盛遠(もりとお)という一人の荒々しい武者がいた。ある日、盛遠は、淀川に新しく架けられた“渡辺の橋”の橋供養のため、要人たちの警護にあたっていたところ、通りかかった美しい女性に一目惚れをする。その美しい女性にもう一度会うべく、身元を探すと何と彼女は幼き頃に恋をしていた袈裟(けさ)という女性であり、盛遠の従兄弟だった。しかも、今は盛遠の同胞である渡辺渡(わたなべのわたる)の妻だという。

 

盛遠は、かねてから「袈裟を妻にしたい」と伯母(袈裟の母)である衣川(ころもがわ)に頼み込んでいたのだが、間接的に断られてしまっていた。それどころか、渡辺渡の妻になっているなんて…!気持ちを抑えられず、盛遠は衣川のところへ詰め寄り、「今すぐ、袈裟に会わせろ!」と刀を抜いて衣川に今にも切りかかろうという憤慨ぶり。

 

あまりの恐ろしさに衣川はどうすることも出来ず、仮病を使って袈裟を自宅へ呼び寄せ、事情を話すことに。母想いの袈裟は、盛遠と一度だけの面会を承諾するも、「渡と縁を切り、自分の妻になれ」と母の命を盾に迫りまくる盛遠をどうすることも出来ずにとうとう観念してこう言った。

 

「承知いたしました。しかし、私は夫のある身。私を妻にしたければ、渡を殺してください。今から家に戻り、夫に酒を飲ませて髪を洗わせ、寝かせますので、密かに家に忍び入り、濡れた髪を頼りに渡の首をとってください。」と。

 

ようやく自分の袈裟に対する想いが通じた!と喜ぶ、盛遠。袈裟との約束通りに深夜に家へ忍び上がり、濡れた髪を探って首を討ち取り、着物に首をくるんで持ち帰った。

 

これでやっと袈裟が自分の妻になると思ったその時。

月明かりに照らされた、渡の首を見ると…目の前にあったのは渡の首ではなく、自分が愛してやまない袈裟の首だったのだ。

 

なんということか。

激しく迫る盛遠に対して困り果てた袈裟が選んだのは、夫を殺すことではなく自害するという道。愛する人をそこまでに困らせてしまったこと、そして取り返しのつかない結果を招いたことを激しく後悔した盛遠は、渡への謝罪の後、出家をし、名を盛遠から文覚(もんがく)と改めた。

 

 

※左から渡辺渡・袈裟御前・文覚上人の像

 

なんと…シェイクスピアにも負けず劣らずの悲恋ぶり!!(涙)

しかも、、、

この時の袈裟の年齢はまだ14歳

女子中学生ですよ。

 

もちろん、当時その年齢で嫁ぐことは当たり前だったのかもしれませんが、妻として夫を裏切ることは出来ないからと自害の道を選ぶことは、当時の考え方からしても、驚くような決断であったことには間違いありません…。

 

いっぽうで袈裟は、どうしてそんな悲しい結末を選んでしまったのか、疑問が残るばかり。夫に相談して解決してもらえれば良かったのに…など、そういうことばっかり考えちゃいます。

 

そこで実際に恋塚寺に訪れ、この伝承にまつわる隠された登場人物たちの想いを寺庭夫人(住職の奥様)である安藤美栄子さんにお聞きしてみました。

 

※恋塚寺のご本堂

 

 

—そもそも袈裟の母、衣川は何故、結婚したがっていた盛遠の申し出を断って、袈裟を渡の妻にしたのでしょうか?

 

「そうですね、衣川は甥の盛遠が、かねてより気性の荒い性格だということを知っていました。

甥としてはよくても、自分の娘の夫に…となると親心として彼の気性の荒さが、少し心配だったのかもしれません。そういう想いから間接的に袈裟との交際を断ったのかと思います。」(安藤さん)

 

—優しい母なりに娘を守ろうとしていたのですね。それ以上に盛遠の袈裟に対する想いは強く、激情してしまうキッカケになってしまったとは何とも皮肉なことです…。しかし、なぜ袈裟はそうした鬼気迫る盛遠の申し出を、ただの一度も夫に相談することなく、自害するという道を選んだのでしょう?

 

「袈裟は妻とはいえ、年は14歳と、まだ子供でした。どうすれば良いか分からないながらも手探りに、母を守る方法、夫に心配をかけない方法はないものか、何とか一人で解決せねば…。と、悩みに悩んだ結果、自害という道しか見出せなかったのかもしれません。

夫に相談する方法もあったのでしょうが、袈裟は妻として、夫の知らぬところで他の男に言い寄られている話なぞ、すべきではないという考えも持っていたのではないかと伺えます。」(安藤さん)

 

※袈裟御前の肖像画

 

—“貞女の鏡”と呼ばれるにふさわしい、袈裟らしい決断があるのですね。少女が、悲しい結末を選ばざるを得なかったと思うと胸がとても締めつけられます…。こんな結果を招いた原因となる盛遠のことを、袈裟は、憎らしいと感じていたりするのでしょうか?よく伝説ではこうした非業の死をとげた後に恨みをもった霊となって出てくるという逸話もありますが…。

 

「袈裟と盛遠のこのお話は、鎌倉時代の軍紀物語“源平盛衰記”に記されていますが、袈裟が盛遠を憎く思っていたり、恨んでいたり…といった記述はありません。きっとおそらくは、気性の荒さに困ったところはあっても、幼き頃に仲良く遊んだ間柄。従兄弟である盛遠の良さも理解しているからこそ、憎めなかったのではないかなと思います。」(安藤さん)

 

—亡くなった後の袈裟の想いが語られることはありませんが、穏やかで優しい心の持ち主の袈裟は、きっと盛遠に対しても“私を愛しているがゆえの過ち”と捉えているのかもしれませんね。だとすれば、もう懐が深すぎて、同じ女性として頭が上がりません…!

 

※物語の内容が描かれている掛け軸と袈裟御前の肖像画

※お話は一番上の段の右端から始まります。

 

—そしてもうひとつ、袈裟が眠っている恋塚ですが、こちらの恋塚だけが、ほんの少し北西の方向に傾いていると言われています。そこには何か深い理由があるのだとか。

 

「ちょうど恋塚寺から北西の方角に、盛遠が文覚となったのちに再建した神護寺(じんごじ)というお寺があります。

文覚上人も偉いお坊さんになったのだからということで、明治期の恋塚寺再建の際に村人が、袈裟の眠る恋塚を、文覚の眠る高雄に向けてくださったのです。もちろん、今も再建当時のまま恋塚は北西の方角を向いています。」(安藤さん)

 

※袈裟御前の眠る恋塚

※恋塚だけが北西の方角を向いています

 

このお話がいかに長い歴史の上で、たくさんの方に語り継がれ、大切にされてきたのかが伝わります。安藤さん、貴重なお話を本当にありがとうございました。

 

実は、南区上鳥羽にも同じ伝承が語られる恋塚寺浄禅寺(じょうぜんじ)という名前のお寺がありますが、浄禅寺の恋塚はもともと「鯉塚」が語源となっていて、妖怪となって現れた鯉を退治して築いた塚があることからこの名前が掲げられています。

鴨川を挟むようにして二つの同じ名前のお寺がある。そんなご縁もあってか、浄禅寺も袈裟と盛遠の伝承をお伝えしているのだとか。もし宜しければ合わせて、上鳥羽にある浄禅寺さんにも訪れてみてくださいね。

 

いつか語られなくなってしまう史実が数多くある中で、数百年という歴史を経て、人から人へ伝わる袈裟と盛遠のお話。それはきっと悲しいお話だからというだけでなく、袈裟の美しい心、文覚となった盛遠の後の働き、渡の妻への深い愛情など、登場人物すべての人が愛に満ちた優しい人柄だからこそ、後世に伝えたくなるのかもしれません。

 

今回の発見!ミステリーポイントは

「恋塚寺は、それぞれの立場で愛について考える場所」

 

片思いをしている方、妻という立場で夫を支える方、愛する女性を守る男性にもぜひ、恋塚寺へ訪れて、それぞれご自身の立場で愛について深く考えてみてはいかがでしょうか。

※かやぶきの門を超えて、目の前が本堂、右横にあるスロープを降りた先に恋塚があります。

Information
店舗・施設名 恋塚寺
住所 京都市伏見区下鳥羽城ノ越町132
交通 京阪電鉄 「中書島」駅より市バス
22系統 南工業団地前行 「国道下鳥羽」下車 徒歩5分
19系統 京都駅行「下鳥羽城ノ越町」下車徒歩2分

JR・近鉄京都駅「京都駅八条口」より市バス
19系統 中書島行「下鳥羽城ノ越町」下車徒歩3分
ホームページ http://www.geocities.jp/koiduka_dera/

Writer角侑子

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Writer角侑子

京都出身の父を持ち、京都をこよなく愛する母の英才教育を受けて育った、京都好きのWEBライター。 ミステリアスな話、それにまつわるスポット、ついでお香の香りも大好物。

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