浮き上がる鳰 かつて鳰が多数生息したことから、母なる湖、琵琶湖は「鳰(にお=カイツブリのこと)の海」と呼ばれていた。カイツブリは一夫一妻。水生植物であるアシやヨシなどを使って浮巣を作り、そこで子育てをする仲睦まじい鳥である。 長久堂の「鳰の浮巣」は、吉野葛・こし餡・抹茶の三種類。二羽のカイツブリが卵とともに巣の中で寄り添っている様が描かれている。コーヒーカップや椀に浮巣を入れ、熱湯を八分目ほど注ぐ。優しくかき混ぜると、水面に上がってくるがごとく、葛湯にひとつがいの鳰が浮かび上がってくる。その様子を見ると、自然と顔がほころび、お茶の時間が心和むひとときとなるだろう。 |
京菓子の伝統と新しきアイデアの融合 鳰の浮巣は滋賀県出身の妻を持つ、二代目長助が発案。二代目、三代目と二代かかって完成された壮大なお菓子である。葛湯は京都では実は夏のものだった。葛湯(熱い物)をたべて暑気払いするというは京都の市井の人が考えた生活の知恵。夏に熱い物を食べる。これこそ、京都人の粋(すい)なのである。完成まで時間がかかったのは、目の肥えた京都人に「これは洒落てるな」と思わせるよう吟味するため。なにもないところから発想をし、材料を考えて製品化する。斬新なアイデアであっても、京菓子の伝統は大切にしなければならない。納得いくまで妥協を許さず、何度も試作を繰り返す。時代を担う店主渾身の一作であるが故に、後生まで残る。ゆるぎのない素晴らしいお菓子が出来上がるのである。 |
菓子屋は死ぬまで勉強です! 長久堂の工場長、京菓子一筋70年のキャリアを持つ村上俊一さんは言う。 菓子屋というもの、森羅万象、世の中のことを頭にいれておかなあきません。お茶の先生や踊りの先生など、純然たる京都人は京菓子というものを知り尽くしておられます。いい加減な気持ちで出来るものではない、と、この齢になってつくづく感じる次第です。品性、京都らしさを活かし、長久堂ののれんに恥じない商品を作ること。難しいテーマですが、菓子屋は死ぬまで勉強です。 |
▲工場長 村上俊一さん |
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