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背景絵 京の町家
【第7回】京町家のデザイン (その1)格子と町並み

 これまで京町家と京都の人や生活、また通りとの関係性を、その内面的な部分についてお話してきました。「京の町家」連載もいよいよ後半に入ります。そこで、町家の具体的な設計手法やデザインを学び、これからの京都のために、創造性のあるまちづくりを考えていきたいと思います。

 さて、町家の特徴といえば、第一に「格子」をあげられる方が多いことでしょう。京町家ではとくにそのバリエーションの豊かさが、都市のリズムとなって独特の町並みを形成してきました。これらの格子は町家の表構えのデザイン性だけでなく、いくつもの驚くような機能性も兼ね備えていました。
 まず、格子の構造分類としては、出格子(台格子・釣格子)、平格子があり、形状としては親子格子、切子格子、板子格子、細目格子、目板格子があります。
 これらの基本形態をふまえ、京町家の特徴として、第一にあげられるのは、それぞれの格子は、その形や様式によってその店の職業を表現していたということなんです。前に話しましたように、通りごとにほぼ同じ職業が集まっていた時代には、機能性によってデザインされた格子が、商売ごとに統一された町並みのリズムを作っていたということなんですね。

糸屋格子
採光に適した構造のため、色ものを扱う糸屋、紐屋、呉服屋などの繊維業界の店構えにつけられたもの。切子(立子の上部が一定の長さで切られているもの)の数は、織屋4本切子、糸・紐屋3本切子、呉服屋2本切子というように、商売に応じて採光率の調整もされているところがおもしろい。
酒屋格子
2.4寸×1.4寸の立子を、2.4寸間隔に立て、2.7寸×三分の貫で留めた粗格子に紅殻塗されたもの。酒樽をあててもこわれない頑丈さを持ち、かつ材料も選び抜かれた角材ものを使用している。
米屋格子
構造的には酒屋格子と同じであるが、質素で格子は木地のままのものが多い。米俵を積み上げるので土台の貫を二重にしている。

麩屋格子
麩、湯葉、豆腐、こんにゃくなどの水を使う店構えのためのもので、格子の内側には「水場」「七輪場」「揚場」などの作業台がすべて設置されている。濡れても大丈夫なように障子には油紙が使われている。

炭屋格子
炭屋はもともとは開放されていたが、炭粉が舞うため近隣への配慮としてつけられるようになった。そのため、格子の開きを狭くした板子格子となっている。

仕舞屋格子
商家ではない町家の「ミセの間」は居室となる。そのような仕舞屋につけられた一般的なもの。

 これらの格子に見られるように、なにかひとつのルールをつくることによって町並みを美しく連続させることができるのです。現在の京都では、建物の素材もまちまちですから、町家と同じようにはいきません。今の私達の生活にあった共通のルールとなる新しい発想やデザインが必要とされているように思います。建物のデザイン規制や高さ制限にとらわれがちですが、ここで発想を変えてみたらどうでしょう。

 私達の住む京都は「通り」よって育まれた町です。今の通りはアスファルトの無味乾燥なもので、決して人に語りかけようとはしていませんが、その「通り」が見直されることによって、新しい都市の対話がうまれるのではないでしょうか。やがて、そんな対話によって、それにふさわしい新しい町並みがつくられることでしょう。「足の裏で京都を感じてみる」こんなことが、ひとつのきっかけになるかもしれませんね。 

京都芸術デザイン専門学校専任講師 冨永りょう

(参考文献):『京の町家』/淡交社 『格子の表構え』/学芸出版社
別冊緑青5『よみがえる京の町家』/マリア書房


京都府 京都文化博物館一階「ろうじ店舗」では、江戸
時代末期の商家や町家の表構えを忠実に復元してい
て、代表的な格子はここで見ることができます。
京都市中京区三条高倉 TEL.075-222-0888
開館時間10:00~19:30
背景絵
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